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カテゴリー: Japanese

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三宅唱監督「夜明けのすべて」を見た(ネタバレあり)

三宅唱監督作品「夜明けのすべて」を見てきた。三宅唱の作品は前作の「ケイコ 目を澄ませて」ではじめて見てほかに見てないのだけれど、「ケイコ」でなんとなくノイズに感じた部分が今回はすんなりと見られたように思う。たとえばモノローグやオフの声を使ったモンタージュで場面を一気に進めるのがなにか苦手だったのだけれど、今作ではむしろそれがしっくりきた。

というか、登場人物のコミュニケーションや身振り、そしてなにより表情の機微にものすごく豊かなものが詰まった映画だけれども、それをひとつのまとまりとして総括するような役割はモノローグにあるような気がする。藤沢が自らPMSを抱えるつらさを吐露するモノローグからはじまって、山添がパニック障害からの回復を語るラストのモノローグでこの映画は終わるわけだけれど、その内容、ある種の告白としての対称性が、ミクロなひとつひとつの出来事や身振りをひとつの感慨へとまとめあげているというか。

加えて、山添と藤沢がふたりで取り組むプラネタリウムの解説の台本を読み上げる声を土台に時間の経過を示すモンタージュが行われるくだりも印象的だった。あれは別に会話や対話ではないのだが、ひとつのテクストをわけあって読むということ自体が、ふたりのあいだで築かれてきた関係を象徴しているみたいで、涙腺がゆるみかけたのだった。映画のハイライトをなす移動式プラネタリウムの場面も、直接交わしてきた言葉以上に、そこで読み上げている藤沢の言葉を外で受付を担当する山添が耳にして顔をほころばせる、その瞬間にもっとも精神的な交通が起こってるように見えた。さらにそのテクストには数十年前から届いたテープやノートからの声が重なっているというのも味わい深い。

しかし、「ケイコ」もそうだったんだけれど、このひとの映画は空間がどれも変で、「ケイコ」のボクシングジムも、「夜明けのすべて」の栗田科学のオフィスも、狭い割には入り組んでいる。栗田科学のオフィスなんか、入ってすぐの事務室から数段階段をあがったところに窓のついた会議室があり、そのまま続く廊下を抜けると作業場がある……はず。なんかぱっと間取りが思い浮かばない。単に入れ子になっているというだけではなく、それによって複雑な光の効果がうまれていて、場面によって表情が変わり、見ていて飽きない。室内だけじゃなく、山添が藤沢の家に向かって自転車をこぐシーンでも、どのカットを見ても「この道路、まるでセットみたいだな」と思ってしまう。何度か出てくる高架(っていうほど高架じゃないか?)下のトンネルもそう。

というわけでどうも空間的には書き割り的(何度も挿入される夜景とか、あからさまなほど)なのだが、にもかかわらず狭苦しさや箱庭感に回収されないのは、やはりそうした奇妙な空間のなかで奥行きを強調した構図や演出、光のニュアンスを捉えた撮影が大きいのかなと思う。逆に、光を狭く使うことで広々としているはずの体育館をなかば密室のように見せていたグリーフケアの場面を見ても、意識的なんだろうと思う。その意味で移動式プラネタリウムはそうした空間と光をいかす象徴的な道具でもあるように思えた。暗いプラネタリウムから出ると、光が差し込むもののやや薄暗い体育館に出て、さらに外に出ると、夕暮れ近くの陽光が差している。このグラデーションがこの映画そのものという気がしてくる。これも「ケイコ」で思ったことと、似ているというか、やっぱ作家性なのかな。

なんだかんだと言ったものの、やはり最終的には、主演のふたりをはじめ、出演した役者陣の演技がどれも素晴らしく、マジで具合悪いときにはちょっと大丈夫かと思うくらい具合悪そうに見え、マジで元気になってきたときにはよかったね~って言いたくなるくらい元気に見える上白石萌音と松村北斗は本当によかった。あと結構くすっと笑える場面がたくさんあった(髪切る場面はじょきん!って行く段階で吹き出してしまった)のもよかった。よかったです。

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ユリイカ2024年3月号 特集=柴田聡子 に寄稿しました

この記事にはアフィリエイトリンクを含みます。

ユリイカ 2024年3月号 特集=柴田聡子 ―『しばたさとこ島』『さばーく』『ぼちぼち銀河』、そして『Your Favorite Things』へ…日々を抱きしめる言葉と音楽―

ニューアルバム『Your Favorite Things』をリリースした柴田聡子を特集したユリイカ2024年3月号に、「「後悔」とそのスタイル」という文章を寄稿しました。名曲「後悔」のかんたんな分析と、「後悔」と通じる構成をもつ楽曲を柴田さんのキャリアのなかから何曲かピックアップしてそのスタイルについて書いています。まあ内容はシンプルで、言葉とリズムの関係を淡々と観察してみたというだけではあります。

「「後悔」で書くぞ!」と思ってからはとりあえず楽曲の構成をスプレッドシートにおこし(1行=1小節)、リズムの配分を確かめ……と割とシステマチックに分析していったんですが、書き出すたびに「なるほどこうなってんだな」と発見があったので、やっぱり細かく聴くっていうのは楽しいし大事だと思いました。

また、『Your Favorite Things』に関する柴田聡子インタビューを現在売りのミュージック・マガジン3月号に寄せています。

ミュージック・マガジン 2024年3月号

はやくもものすごい絶賛の嵐、ってな感じの『Your Favorite Things』ですが、正直こんなに絶賛!? って軽く困惑もしています。逆に「あざとい!」って敬遠されるんじゃないかとちょっと不安でもあり。先行シングルのネオソウル的な路線や、Side Stepみたいなダンサブルなサウンドでいくのかなと思ったら、もっとアンビエントぽかったり、シネマティックなアレンジを要所要所で入れてきたのがすごく効いているな、という印象です。

いずれにせよ、とても良い作品であり、今後の飛躍にさらに期待がかかる(まだまだ「次」を感じる)ので、わくわくしながら聴くのが吉かと。

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サ柄直生, uami「おぼろのうた」について(お仕事報告)

サ柄直生, uami「おぼろのうた」のリリースにあたり、プレスリリースの執筆を担当しました。

以下、プレスリリースの作品紹介のテクストです。

 プロデューサー/トラックメーカーのサ柄直生、そしてシンガーソングライターのuamiがEP「おぼろのうた」をリリースする。2021年のシングル「まねごと」をきっかけに積み重ねてきたコラボレーションの成果を届ける、全5曲の濃密な作品だ。

 本作で鮮烈な印象を残すのが、ビートレスなサウンドで劇的な展開をつくりだすサ柄のプロダクションだ。一方で、uamiによる聴く者の耳を捉える繊細なメロディと、それを届ける歌声の力があざやかに浮かび上がっていることも本作の魅力のひとつ。まさにコラボレーションならではの化学反応だ。

 いわゆるキャッチーな「歌モノ」とは一線を画しつつも、本作はまぎれもなく「歌」にフォーカスしたEPだ。リズムやコード進行によるドラマのかわりに、メロディと言葉に寄り添ってシネマティックなサウンドを構築するサ柄のアプローチと、自身が得意とするヴォーカルのレイヤーによるハーモニーをあえて抑制してメロディにフォーカスしたuamiのスタンスが、見事に噛み合っている。

 4曲目に収録された「よあけ」には、uamiとのユニット・avissiniyonでの活動経験もある気鋭のシンガー・ソングライター、君島大空がゲスト・ヴォーカルとして参加。飾り気のないメロディに豊かなニュアンスを加えるふたりの歌声が耳を捉える。

 また本作はサ柄がillequalと立ち上げるレーベル、euraがリリースする最初の作品でもある。サ柄・uami両者の活動に加えて、euraの今後の動きにも注目して欲しい。

プレスリリース執筆にあたってはおふたりに作品についてヒアリングしましたが、uamiさんのシグニチャーにもなっているヴォーカルのレイヤリングは今回あえて抑えているそうです。それによって逆にヴォーカルとメロディの力が浮き彫りになっているのはもちろん、サ柄さんが「ヴォーカル以外の音も『歌』だと思っている」という旨おっしゃっていたのが印象的でした。「歌声も音だと考える」って割りとよくあると思うんですけど、逆に「全部の音が歌」ってあんまり言わないじゃないですか。でも「おぼろのうた」を聴いているとたしかにそんな気がしてくるんですよね。

uamiさんもメロディに力を入れた部分があり、たとえば5曲目の「苞」を書くにあたっては、最近のJ-POPで好まれる凝ったメロディを研究したりしていたそうです(一方で、いつもどおり一筆書き的にさらっと書いたメロディも多いらしいのですが)。個人的には、素朴さと繊細なニュアンスが緊張感あるバランスで同居しているM3「惑ひ」や、耳に残るキャッチーなフレージングが歌声の魅力を活かすM4「よあけ feat. 君島大空」が特に素晴らしい。

EPながら濃密な一作なので、ぜひ聴いてみてください。

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日曜日のプレイリスト #006

今回、Apple Musicに入ってない曲があったため(時間差?)、Apple Musicのプレイリストは不完全です。Klinical, Killa P – Readyは別途チェックしてくれ~(YouTube

楽曲リスト&コメント

Luísa Sonza, MC Kevin o Chris – recadin no espelho

ブラジルで勢いを増している気鋭のシンガー、Luísa Sonzaのニューシングル。リオデジャネイロのファンキMCでソングライターのMC Kevin O Chrisが参加した、冷ややかでアトモスフェリックなファンキのビートがかっこいい1曲。Kevin O Chrisのやわらかな歌心あるパフォーマンスもあいまって、クールななかに親密さを感じるすごくバランスのとれたプロダクションで、このミニマリズムはポップなファンキともアンダーグラウンドなファンキともちょっと違った印象で、とてもいい。

DBN Gogo, Omagoqa, Baby S.O.N, Yumbs, Dee Traits, Dinky Kunene, Soul Jam – SKOROKORO

これは完全にaudiot909さんのリコメンドで聴いたもの。南アフリカのプロデューサー、DBN GogoのEP「Click Bait」の冒頭の1曲。シャッフルしたシーケンスにのるパッドやリフはまるで初期Floating Poitsみたいなフィーリングで、でもパーカッションのノリはアフロハウスな感じなのがすごくハマった。間違いないバンガー(昨年リリースされている)のSAdesFakSHenBenny Benassiの名曲(NSFWなMVでおなじみ……)をアマピアノにアレンジしたクレイジーな1曲でそちらもよい。

ところでこれきっかけであらためてアマピアノや3 Stepのプレイリストを聴いてたりしたんだけど、3 Stepって小節頭から「ドンドンドン……」って3拍入るようにも「ドン……ドンドン」って3つ目のキックが小節頭のアクセントになるようにも聴こえる気がする。

Little Simz – Mood Swings

Little SimzのサプライズリリースされたEPはベースミュージック系のプロデューサー、Jakwobとタッグを組んだ渋めのダンスチューン満載で、Infloと組んだアルバム群よりも好きだったりする。Drop 6も好きだったな。この曲はビートのパターンこそジャージークラブっぽいが、GqomのUK解釈がグライムとかと合流した流れ、ScratchaDVAとかを連想するようなダークさがすごくいい。

clear eyes – i’ll hold u

Marian HillのJeremy Lloydによるソロ・プロジェクト、clear eyesのシングル。ミニマルなビートに、パーカッシヴなアタックが強調されたストリングスやピアノのサウンドが構築する上モノが絶妙にマッチしている。おれ、こういう点がわさわさ寄り集まってるみたいな音に弱いのかも。

Tomggg, raychel jay – Sweet Romance

Tomgggさんの新曲はひさびさにLAのシンガーソングライターraychel jayを迎えた1曲。いつもどおりの弾力あるチャーミングなサウンドとテンション低めのリラックスしたヴォーカルのマッチングが素晴らしく、声のテクスチャを強調する平歌からリバーブがかかってボーカルがハモリだすサビまでの前半の流れがめちゃくちゃスムース。気づくとサウンドの世界に没入しているみたいなこういう導線のつくりはさすがだと思う。

RYUTist – 君の胸に、Gunshot

D.A.Nの櫻木大悟が提供した、暴れるシンセとクールなヴォーカルが溶け合うトランシーなRYUTistの新曲。『(エン)』でも相当尖ったと思ってたけど、ここまで行っていいのか? とちょっと不安になるレベル。これはパフォーマンスがめちゃくちゃ見たい。Wicked! Wicked!

Crystal Kay – That Girl

Crystal Kayまでジャージークラブやるの? と思ったがどうもこう、最近よく聴くポップ化した(ざっくりいえばBoy’s a Liar以後の……)スタイルというよりももっとオーセンティックな感じでちょっとナツいまである。とクレジットを確認すると、☆Taku Takahashiさんに加えてR3LLが編曲に参加。なるほど~。

ぶっ恋呂百花 – ぶっころにゃん♡

この曲をもって12ヶ月連続リリースを駆け抜けたぶっ恋呂百花。ジャンクなポップさで突き抜けてもいいところにちょっとetherealな雰囲気のドラムンパートが入ってくるあたりにキュートにも露悪にも単純に振り切ってやらんぞという矜持を読み込んでしまったりして。おつかれっした。3月にはリリパというか連続リリース達成杵パーティもあるらしいぞ。

Phocust, MIKESH!FT – Neon Flex

アメリカのプロデューサー、PhocustとMIKESH!FTによるシングル。めちゃくちゃチージーなコード感とメロでも馬鹿みたいなサウンドでエグいヨレ方したドロップになった瞬間に「これや~~~!!!!」となってしまうのでやっぱりメロディックなダブステップを聴くのはやめられない。ドロップのいかれたパターンは音の鋭さ含めてめちゃMIKESH!FT感があってそれもよし。

bastienGOAT – Beautiful Lover

オークランドのプロデューサー、bastienGOATのEP「NODE」から1曲。bastienGOATはフットワーク系の曲をやってるので知ったのだがもっと万能というかいろんなベースミュージックをごりごりやっており結構好きなプロデューサー。「Beautiful Lover」はバキバキに歪んだベースで聴かせるブレイクスでその潔さにぶち上がる。同じEPでは「That’s why they roll」もレゾナンスききすぎてびちょびちょになったシンベの気持ち悪さがクセになって素晴らしい。

Dabow – TRAPBELL

アルゼンチン出身のプロデューサー、Dabowのシングル。曲名のとおり、ベルのキンコンキンコン言うサンプルが印象的なトラップで、妙なサンプル一本で突っ切るミニマルさがぐっとくる。BandcampをのぞいたところHamdiのヒット曲「Skanka」のクンビア・フリップなんかやっててそれもよかった。

Klinical, Killa P – Ready

UKF DubstepのYouTubeチャンネルで聴いてかっけ~となって選曲。ダビーでスモーキーなゼロ年代のダブステップのフィーリングを蘇らせつつ、サウンドのビッグさはもっと現代的な感じで、世代的にぐっときてしまう。Klinicalはどっちかっていうとドラムンベースもともとやってたのが140くらいのノリになってきたっぽくて、そういう流れなのか~と思った。

HIJINX – Swarm

もともとMr.K名義でダブステップをリリースを重ねてきたブリストルのプロデューサーで、心機一転名義を変えてHIJINXとして2021年から活動を開始。Alix Perezの1985 MusicからリリースしたばかりのEPから、ベースのニュアンスの豊かさと軋むようなウワモノのグルーヴがかなり楽しい1曲。最近盛り上がりつつあるのもあって、2010年代のダブステップをさらっておこうかしらという気になってくる。

Sully, Sãlo – Nights (Edit)

以前Basic Rhythmとのスプリットから紹介したことがあるSullyのシングル。歪んだ808のサブベースの存在感はもちろん、スネアや金物、あるいはところどころに挿入されるパーカッションのテクスチャの豊かさはある種ユーモアを感じて、やっぱりこのひとすごい好きかも。とか思う。今回選曲したのエディットバージョンだが、シングルは3月1日にリリースとのこと。

宮本フレデリカ (CV:髙野麻美), 速水奏 (CV:飯田友子) – ミステリーハート (GAME VERSION)

先日行われたデレマスユニットツアーの山形公演でライヴでは初お披露目となっていた、ユニットFrenchKisSの新曲「ミステリーハート」。PandaBoYのプロデュースによる洒落た2ステップで、フレちゃんの歌声にぐっときてしまう(奏さんの歌唱も好きだけど)。

Creepy Nuts – 二度寝

なぜこんなにジャージークラブをやるんだDJ松永。と一瞬思ったけど、まあジャージークラブうんぬんというのはある意味では表層的というか、キックのパターンこそジャージーっぽいがそう一筋縄でいくものでもなく、バックビートにスネアをきっちり打ってどっちかっていうとエイトビートのロック的なニュアンスをうまく混ぜているところにDJ松永のプロデューサーとしてのうまさを感じる。ちょっと泣き入る感じのギターをうすく被せる感じとか、日本で売るポップスとしての勘所(日本で売る、は必ずしもドメスティックで閉じている、を意味しないのであしからず……)を抑えているだろう。オーセンティックなヒップホップやジャージークラブとしてどうかというよりは、その折衷性にこそ聴くべきところがあるのでは。

Nubiyan Twist, Nile Rodgers – Lights Out

ロンドンの大所帯アフロジャズバンド、Nubiyan Twistが5月にニューアルバムをリリース。そこからの先行シングルで登場したのはNile Rodgers。アフロビートのニュアンスは抑えて、4つ打ちのディスコ・テイストを強調した前半ではNile Rodgersが大活躍しているのだが、終盤ではドラムのパターンをはじめバンドのアンサンブルがNubiyan Twistらしいアフロ・ビート的なグルーヴになだれ込んでいく。この展開はアツい。そこに改めてNile Rodgersのカッティングが登場して、アフロビートとファンクが邂逅。満足度高し。

OKAMOTO’S – カーニバル

OKAMOTO’Sのシングル「この愛に適うもんはない」のカップリング曲なんだけれど、めちゃくちゃフォーキーで染みるメロディがクセになる。展開含めてなんかくるりみたいだな……と思ったりして。再生すると思わず聴き入って、最後まで聴き通してしまう。

Sweet William, 中山うり – スイカ

Sweet Williamの3年ぶりとなるアルバムに収録された、中山うりをフィーチャーした洒脱な歌モノ。ハットを抜いたキックとスナップだけのシンプルなリズムパターンを補うように配置されたサウンド(パーカッションもさることながら、アコギやピアノも)が、非常に簡素な印象の音像のなかでおもいのほか緊密に組み合わさっているのが良い。ループ感が強いようでいて、意外なほど「展開」していて、イージーに聴けるけど巧みなクラフトで成り立っているな……など。

Faye Webster – Feeling Good Today

オートチューンによる2声のハモリが印象的なFaye Websterの新曲。1分半にも満たない小品で、ほぼギターの伴奏だけ(アウトロにピアノが登場する)というカジュアルさながら、そのカジュアルさゆえに輝くものがある。素晴らしい。

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カル活ダイアリー(2月3日、4日、7日)

2月3日

THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS UNIT LIVE TOUR ConnecTrip! 山形公演(やまぎん県民ホール)を見た。デレマスのライブは昔ライブビューイングで見たきりで、現地参加ははじめて。近くの駐車場に乗り付けてやまぎんホールに向かうと、アイドルのハッピ着てタオル持ったおたくが広場に押し寄せていて迫力があった。おれはグッズ関係なにひとつ持ってなくて、逆にちょっと恥ずかしかった。気合の入ったおたくにたいする引け目、ありますよね。

開演前BGMには、山形出身アイドル辻野あかりのソロ曲が流れて会場ぶち上がり。いい曲だね。

うちはりんご農家でもあるので山形りんごがフィーチャーされるのはうれしいが、山形といったらむしろさくらんぼやラ・フランスではないかという思いもなくはない。

3階席最後列という席ガチャハズレな感じの場所だったけど、そもそもホールがそんなに広くないのでぜんぜん気にならなかった(オペラグラスはやっぱり欲しかったが……)。というかこんな場所でデレマスのライブ見れるのやべ~って感じで、なんとも贅沢な時間であった。80分とか90分だったかな。タイトだけど濃密なセットリスト。

まあいろいろ楽しかったのだが(MCとか)なによりイノタク曲を存分に楽しめたのがよかった。かねてから生涯ベスト、世界で一番いい曲と公言してきた「クレイジークレイジー」を生で聴けたし、「Radio Happy」も見れたし、「Hotel Moonside」も見れた。思い残すこと、なし。生で動くあやっぺを見れたのもよかった。

ただ、やっぱりペンライトを振って盛り上がるというのがなかなかよくわからない。後半になってようやく掴んできたけれど。あと4つ打ちで手拍子起こるのはいいけどみんな走りすぎてて「ちゃんと音を聞いて!」と思った。でも手拍子って意外とむずかしいよね。おれも上手にできる気がしない。

2月4日

山形駅西口のレコ屋RAF-RECに食品まつりさんとTaigen Kawabeさんが来るというので見に行った。食品さんの『Yasuragi Land』には日本盤ライナーを書いていて、インタビューもリモートでしていたのだが、対面ははじめて。『Yasuragi Land』にも参加していたTaigenさんとあわせて、きちんと挨拶できてよかった。食品さんはラップトップとSP-404 Mk2とRoland E-4でパーカッシヴだけどビートレスなトラックとヴォーカルというか声のパフォーマンスを組み合わせたライヴで凄まじかった。なんかもう、「熱唱」というかんじで。SP-404に仕込んであるネタはゲーム機のサウンドロゴばかりでそれもとんでもなかった。Taigenさんのパフォーマンスはラップトップからトラックを流し、足元のエフェクターを操りつつヴォーカルを披露するスタイル。セットアップはめちゃくちゃミニマルなのにオーラとパフォーマンスでスペクタクルにしててすごかった。そのままフリーなセッションに突入して謎の狂騒を経て幕を閉じた……。

2月7日

東北芸術工科大学の卒展がはじまったので見に行った。印象に残った人をいくつか。

美術科洋画コースの木村晃子さん(note)、道端に投棄されるし尿入りのペットボトルを題材にしたモキュメンタリーとインスタレーション(《Golden PET Bottle》)、露悪といえば露悪なんだけどアウトプットがスマートで、でも適度に俗っぽい(モキュメンタリーというアプローチ自体が持つ俗っぽさ)。ただテレビとかYouTubeみたいなメディア/プラットフォームではキャッチしきれなさそうなつかみどころのなさもある。

大学院複合芸術研究領域の横田勇吾さん(ポートフォリオサイト)、たしか学部の卒制で作品を見ていて印象に残っていたのだが、そのときよりもテーマが地に足ついていたと思う(うろ覚えだけれど)。ストリートダンスの経験に基づきつつ、ダンスの身体性に加えて、身体の外部(空間、時間、リズム)とどう関わっていくかを突き詰めた結果、ある種のコンテンポラリーダンスみたいな問題意識(日常の動作とその身体性、サイトスペシフィシティ)とパフォーマンスになっているのが面白かった。ストリートからのコンセプチュアリズムってめちゃかっこよくないすか。

大学院芸術文化専攻絵画領域の小林由さん(Instagram)。この人もストリートダンス経験をもとに制作しているのだそうだけれどがっつりペインティング。ダンスの経験はモチーフのレベルでも明確だけれど、方法のレベルにも入り込んでいる。描いた絵を裁断してミシンで再構築して、フレームに不定形なままはりつける。コラージュ的な造形もヒップホップっぽいけど、このフレームからはみ出したりフレーム自体がいびつだったりするところも、あの種の音楽が持つ歪みや断絶(トリシャ・ローズ的な)の具現化っぽくて面白い。帰ってから、小林さんも卒展で見てたのに気づいた。でも卒展のときよりも方法面でも造形でもキャッチーで強いと思う(モチーフの選択が若干ベタすぎる気もしないでもないけど好みの問題ではある)。

美術科洋画コースの塩原唯菜さん(ポートフォリオサイト)。描いているモチーフ自体はキャラクターっぽいというかイラスト的なアプローチなんだけど、線に物質性をもたせる方向で構成された画面がすごくよくて、正方形のフォーマットもばちっとハマっている。素朴にもっといっぱい見たい。

ここ数年で見たなかでも面白かったような気がする。コロナ禍で制限が厳しかった時期に制作・発表せざるをえなかった頃を越えて、学生生活がはじまる頃にコロナ禍が本格化して、その環境を前提に制作するようになったからだろうか……とか思った。

ちなみに芸工大ついて車停めてひといき着いてたら目の前を卒展見学にきていたとおぼしき学部生時代の恩師が通りがかり、「えっマジで?」と思いつつ急いで車を降りて勇気を振り絞り声をかけたところ、結構ちゃんと覚えられていた。14,5年ぶりなんじゃないかな。

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[Soundmain Archive] Nao’ymtインタビュー 自身を「解放」する、R&Bからアンビエントへの道のりと創作の思考法 (2022.08.05)

安室奈美恵や三浦大知のプロデュースワークでも数多くの人気曲を生み出し、自らヴォーカルをとるソロアーティストとしても知られるNao’ymt。そんな彼はここ数年、2014年リリースのソロ作『矢的直明2014』収録曲をリメイクする「Reinterpretation」シリーズや、ヴォーカリストとのコラボレーションを始めとして、旺盛にソロ活動を展開してきた。

Nao’ymtのサウンドを特徴づけるのは、ダンスミュージックの高揚感や、ヴォーカルミュージックとしてのR&Bのスウィートさを芯に持ちながら、さまざまな質感を湛えたシンセやポスト・クラシカル的な音使いでアンビエントに接近する折衷性だ。プロデュースワークでももちろんその片鱗を感じることができるが、もっともそのユニークさが直にあらわれているのは、やはりソロだろう。今回のインタビューでは、具体的な制作プロセスから音楽的な影響源、そして名作・三浦大知『球体』への思いまでを伺うことができた。ストイックさと音楽への愛が同居したような語り口のニュアンスが、テキストでは抜け落ちてしまうのが残念だが、少しでもそれを感じてもらえればと思う。

Nao’ymt「月暈」(2020)

「感謝の気持ち」としてのReinterpretationシリーズ

2020年、新型コロナ禍が始まって、音楽業界にも様々な変化があったタイミングで、ソロでのリリースが活発になりましたね。『矢的直明2014』(以下『2014』)の収録曲をリメイクする「Reinterpretation」シリーズを始めとして、このタイミングでソロ活動に力を入れるようになったのはなぜでしょう。

前々から、『2014』や三浦大知くんとの『球体』で追求した「アンビエント+ダンスミュージック」を自分のソロでもう一度やってみようかなと思っていました。自分の中で大事にしている音楽性がずっと続いていることを伝えたかったんです。そこに奇しくも新型コロナ禍が起こって、自分の制作に集中する時間が確保できたことはきっかけのひとつでした。『2014』を買って聴いてくれた方への感謝の気持ちも大きいです。聴いてくださった方には、元を知っているからこその楽しみ方をしてもらいたいなと。

初めはもっと気軽に、ちょっと手を加えて歌い直すくらいのつもりだったんですが、元のプロジェクトファイルを自分で見てもわからないことが多くて。それに、自分のプロジェクトではプラグインをあまり使わず、実機のシンセサイザーを弾いていることが多いので、まったく同じ音は2度と出ない。がらっと作り変えようとも思ったんですが、連続性の部分がわかりづらくなってしまうので、元の楽曲に合わせて、改めて音を作っていきました。

Nao’ymt『矢的直明2014』(2014)
Nao’ymt「Sunrise (Reinterpreted)」(2021)

「Reinterpretation」のヴォーカルはどれも再録ですよね。原曲と比べると、メインのボーカルラインに加えて新しくハモりが加わっていたりします。

『2014』は普通の部屋でヴォーカルを録っていたので、反響の面でもあまり声を出せなくて。「Reinterpretation」では半分くらいスタジオを借りて録音したので、より歌にスポットを当てることができました。簡単なものとか、大きい声を出さなくていいものは、家で録ったりもしました。

ソロワークならではの実験が作りだす理想のサウンド

具体的に楽曲についてもお聞きしたいと思います。個人的に気に入っている曲のひとつが、「Irreplaceable (reinterpreted)」です。元曲も好きだったんですが、特に空間の作り方がすごく鮮やかになったように感じました。

Nao’ymt「Irreplaceable (reinterpreted)」(2020)

いつも曲を作るときにはまず映像が見えるんです。「Irreplaceable」のときは、車で走っているときに目黒通りで古くて小さな教会を見つけたんです。そのとき、教会の中に人が座っていて、膝の上にかけたブランケットの上に葉っぱが一枚落ちてくる……そういう絵がパッと浮かんで。その時にこの曲が浮かんだんです。異世界感のある、ノスタルジアの感じられる曲。それを再現するために、基本的に素材はテープに1回録って、そのテープに録った音をまた戻して使っています。Sequential Prophet 12やRoland JUNO-106の音をテープに録って、それを戻す、っていう。昔eBayで買った、Uherという古いオープンリールのテープレコーダーを使いました。

そういったガジェットは普段からよく探していらっしゃるんですか。

はい。でも、7割失敗しますね(笑)。でも3割は当たりというか。ほんとに1曲の中のワンフレーズだけかもしれないですけど、「これがあったからこの音が作れた」という喜びがあるんです。仕事のときは修正がなるべくしやすいように配慮するんですが、自分のときは、そういう好き勝手な実験ができる楽しさがありますね。

ハードウェア以外にも、プラグインで重用しているものはありますか。

U-heのシンセがすごい好きで、ZebraやReproをよく使っています。特にZebraはパッドがすごくいい。有名なシンセですが、Spectrasonics Omnisphereもよく使います。ミックスで絶対使うのはFabFilterのProQシリーズとWavesのRenaissance Compressor。Wavesのプラグインは、老舗の安定感があるのでなんだかんだでよく使います。また、アンビエント曲では、AudioThingのWiresやWavesfactoryのCassetteなどを味付けで使用することもあります。DAWはAbleton Liveをメインで使っていて、歌とミックスはAvid Pro Toolsで行っています。

ご自身でミックスも手掛けられていますが、自分でやることにやはりこだわりがあるのでしょうか。

あんまりないですね。頼みたいんですけど、それはそれで大変なので。ちょっと特殊な音の使い方だったりすると、「どう説明すればいいんだろう」みたいな……。だったら、自分でやった方が力作になるかなと思って、日々すごく頑張って勉強してます。正直、作るのはすごく好きですけど、ミックスはそうでもないんです。作るのとは頭の使う場所が違うんですよね。

固定観念に囚われず、自分の表現を「解放」する

「Reinterpretation」以外の楽曲についても伺えれば。個人的に、2020年のシングル「落葉」がとても好きな一曲です。ビートレスで、パッドとピアノが中心になった前半に、提供楽曲ではあまり聞かれないNao’ymtさんの作家性を強く感じます。

Nao’ymt「落葉」(2020)

実は、この曲が一番最初に思い浮かんだときは、アカペラだったんです。だから、全部アカペラで行きたいなと思っていたんですけど……。

ソロ活動でいま目指しているのが「解放」で。やっぱり仕事で音楽を作っている影響で、自分の気持ちを解放するのが難しくなっちゃう。「キャッチーにしなきゃ」「もっと分かりやすくしなきゃ」みたいな意識が働いちゃうんですよ。例えば、自分は着物がすごく好きなんですね。でも、着物を着て、今から渋谷行ってくださいって言われたら、ちょっと恥ずかしい。曲作りでも同じようなことがあって、「アカペラはちょっと……」みたいに思っちゃう。だからパッドを入れちゃったんですけど。

かなり「Nao’ymtらしさ」が出ていると思っていたので、まだ突き詰めたい部分があるんだと聞いてちょっと驚きました。

そういう、攻めたいのに攻めきれない自分の不甲斐なさは常にあります。今のうちに言っておきますけど、もっと行けるんで!(笑) この先、もっと解放していくので。

後半でゴリッとしたビートが入ってきますが、こういった展開のひねりは作っているうちに湧いてくるんでしょうか。

もう、展開まで最初のインスピレーションでできています。あとはそれに耳を傾けて、手繰り寄せて、音にしていく。大体80パーセントは見えてますね。残り20パーセントは、作りながらもっといいのが出てきちゃうことがある。自分の曲で展開が飛んだりするのは、まさに映像から来ているのが理由なんです。映像が変わったら、かかっている音楽も変わるという感じ。音楽はループが前提で、1番・サビ・2番・サビ・大サビ、みたいになっているものですけど、映像は起承転結で進んでいきますよね。作り方が映像寄りなんです。いまは、「サビを一曲のなかで繰り返す必要があるんだろうか?」と思い始めています。

この曲のように、リズムを強調するよりはパッドの音色などを聴かせるようなアンビエント的なサウンドについて、インスピレーションになっているミュージシャンの方はいらっしゃいますか。

いろんな方から受けた影響の上に自分の音楽があるのは確かですけど、例えば「この曲はここからの影響」っていうのはあんまりないんです。今まで培ってきたものがじわじわ出てきて、自分の音楽と触れ合っている。ただ、Sigur RósとかBjörkが大好きで、アンビエント系の曲にはその影響が表れているかもしれないです。他にも、同じアイスランドのJóhann Jóhannssonとか。どんな影響を受けているか、あまり深く分析したことはないんですけど。

Jóhann Jóhannssonのアルバム『Orphée』より「Flight From The City」(2016)

Nao’ymtさんといえばもちろんR&Bが大きな影響源にありますが、それ以外からの影響も大きそうだなと思います。

初めはUSのポップスから始まって、ロックを経て、R&Bを聴きだして……。作っていたのがR&Bだったこともあって、ほぼR&Bだけを聴いている時期が一番長かったですね。それが、自分の感じている気持ちをR&Bじゃ表せないと感じ始めて、色んな音楽をもっと深く聞くようになりました。そこでSigur RósやJóhann Jóhannssonにビビッときて、自分の中で融合させ始めたんです。

プロデューサーの視点から振り返る、安室奈美恵と三浦大知

ご自身も素晴らしいヴォーカリストですが、自分でヴォーカルをとれるということが、制作の上で強みになっていると感じることはありますか?

ありますね。提供する曲でも、仮歌を結構きっちり、このまま完成してもいいくらいまで作るんです。「聴いた通りに歌ってください」と言えば、いちいち言葉で説明する必要がない。それがすごく助かります。たとえば、自分の歌詞は韻をすごく大事にしているので、あえて言葉を変なところで切ったりするんです。普通に歌っても成立してしまうのだけれど、仮歌を聴いてもらえば、そこが切れてる、ブレスしてる、というのをわかってもらえる。自分みたいに作って歌っている人が提供する時は、多分皆さんそうだと思います。結局、自分で「こういう曲にしたい」と思って作って歌っているわけなので、仮歌と最終的な歌が全然違うってパターンはあまりないと思います。

とはいえ、実際に歌入れしてもらったときのマジックもありますよね。

素晴らしいシンガーの皆さんとお仕事しているので、いつもマジックです。特にその人の声が初めて乗った瞬間、一声目で「うわっ」てなったのは安室奈美恵さんでしたね。同じ言葉で同じメロディーなのに、伝わるメッセージの質が違う。

他にも、R&B的な観点で言うと、リフズ・アンド・ランズ(いわゆるフェイク)という、あえて崩す歌い方がすごいのは、やっぱり三浦大知くん。仮歌でもフェイクの部分は全部崩して歌って、ガイドを作ってあるんです。大知くんはそれを聞いた上で、最終的には結構変えてくる。大知くんならではのフレーズになるんですよ。R&Bのシンガーって、その人のフレーズがあるものなんです。タンクだったらタンクの、マライア・キャリーだったらマライア・キャリーのフレーズ、みたいに。それを持っているというのは、R&B好きとしてはすごく嬉しいんですね。

三浦大知「Backwards」(2018)。Nao’ymtが作詞・作曲・プロデュースを手がけた。

ちょうど三浦さんの名前も出たので、三浦さんとお二人で制作した『球体』についても伺いたいと思います。Nao’ymtさんも自ら代表作として挙げられている作品で、個人的にも大好きな作品です。2018年夏のリリースから4年ほど経った今から振り返って、改めて『球体』にどんな思い入れがありますか。

三浦大知『球体』(2018)。全曲Nao’ymtがプロデュースを手がけた「コンセプチュアルプロジェクト・アルバム」

3年以上かけてひとつの作品に向き合うことができたのが一番大きいです。しかも、それがすごく楽しい時間で。PCMレコーダーを持っていろんなところに旅したり、海に行ったり山に登ったりして、いろんな音を集めて、それを元に曲を作って。自分の中では、売れる・売れない、評価される・されないとかいう次元じゃなくて、世に残せたということ自体に意味がある作品です。

もう毎日楽しかったですよ。何をやっていても楽しかった(笑)。晩ごはんを食べていても、「あの主人公はあの後どこ行くかな」とか、「あのシーンでどうやってなんて言うかな」とか、もうそんなことばかりずっと考えてました。『球体』で描かれるストーリーの中に鉄橋が出てくるんですけど、自分の理想に近い鉄橋がどこかにあるんじゃないかと実際に探しに行ったり。わざわざ新幹線に乗って、ぴったりの鉄橋を見つけたら、その下に行ってレコーダーを回して、電車ががたんがたんと通りかかる音を録音して。「おかえり」という曲には、そうやって3年間かけて録った音がSEとしてたくさん入っているんです。春の音、夏の音、秋の音、冬の音を集大成としてあそこに込めていて。そんな作品、なかなか作れない。

ヴォーカル×ダンスパフォーマンスの可能性を追求することが念頭に置かれた『球体』。アルバムの発売に先立ち「”完全独演”公演『球体』」が全国7都市で開催された

しかも、それを稀代のエンターテイナーである三浦大知くんがこれ以上ない形で表現してくれた。独演のステージを観たときに、すごく腑に落ちたんです。音楽が好きで、3歳からピアノを始めて、いろいろな経験を経て、ここにたどり着いた。ひとつの着地点みたいなものを感じましたね。

実は、制作しているとき、「この作品は人々に受け入れてもらえるだろうか」と大知くんにぼやいたことがあって。大知くんは「それは自分がエンターテインメントにします」って言ったんですよ。「エンターテインメントにできるんで、大丈夫です」って。めっちゃかっこいい! と思って(笑)。深夜のコンビニでの話です。それで自信を持って、弱気にならずに行けたんです。

「名刺」がわりのソロで未来を作る

現在、シングルをハイペースでリリースされていますが、また『2014』や『球体』のように、アルバムを制作する予定はありますか?

そこはいますごく悩んでいますね。まとめたいんですけど、繋がりがない曲を集めたアルバムになっちゃうのは嫌なんです。今の時代だからこそ、アルバムとしての意味が大事だなと思っていて。もし、アルバムを出すとしても、今までのリリースとは切り離したものになるかもしれません。

リスナーとしては、「次にアルバムが出るとしたらどうなるんだろう」と期待してしまいます。Nao’ymtさんご自身としては、そうしたアルバムに対するプレッシャーはありますか。

あまりありません。ソロだから、成功しようが失敗しようが自分の他に誰も傷つかない。そこは楽ですよね。 むしろ、どなたかに提供した作品となると、責任があるなとは思います。

2022年現在、作家的に楽曲を提供する仕事と、ソロとしてのリリースの両輪で活動されていますよね。意識的にそのバランスをとることはしますか?

いや、それはもう全然。単に、音楽作るのがほんとに大好きなんで、常に作っていたいんですよ。仕事が来たらそのために作るし、仕事がなかったら自分のために作るしっていうだけです。

今は、ソロ活動がいわば名刺みたいな感じなんです。「こういう感じの曲いいじゃん」って思ってもらって、そういう仕事が来たらいいなと。仕事だから、ソロだから、っていう風にはあんまり考えないようにしてます。最終的には、仕事もソロもひとつになったらいいなと思っています。

取材・文:imdkm

Nao’ymt プロフィール

東京都千代田区出身。独自の世界観で全てを包括する音楽家。
1998年にR&Bコーラスグループ“JINE”を結成。2004年よりプロデュース業を本格的に始め、三浦大知、安室奈美恵、lecca、AI、他、数多くのアーティストに作品を提供している。
特に三浦大知の多くの楽曲を担当。中でも、2018年7月リリースのアルバム『球体』は、アルバムコンセプト含め全16曲の作詞作曲・プロデュースをした出色の出来である。
また、安室奈美恵に関しては、ヒットシングル「Baby Don’t Cry」「Get Myself Back」など、これまで28曲を担当。小室哲哉以降もっとも多くの曲をプロデュースしている。

https://naoymt.com
https://www.instagram.com/naoymt/

ニューリリース「Japanese Summer Lost」

遠い昔、日本の夏、人々はどのような風景を見ていたのでしょうか。
そんなことを思いながら作りました。(ご本人のTwitterより)

各種プラットフォームでの配信はこちら:
https://orcd.co/japanesesummerlost

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[告知]美学校にて「基礎教養シリーズ〜ゼロから聴きたいテクノロジーと音楽史〜」を開催します

2月25日(日)に神保町・美学校にて「基礎教養シリーズ〜ゼロから聴きたいテクノロジーと音楽史〜」を開催します。昨年頒布したZINE「音楽とテクノロジーをいかに語るか」をベースに、音楽とテクノロジーの関わりについて考える4時間(!)となっております。

自分からはイントロダクション的なトーク+テクノロジーにおける「脱植民地化」をテーマにしたトークの2本をお送りするほか、ゲストに東京藝大の松浦知也さんをお招きし、現代の音楽制作に欠かすことができないコンピューター/コンピューティングについてお話していただきます。

松浦さんのお仕事は公式ウェブサイトでうかがい知ることができますが、『クリティカルワード ポピュラー音楽』に「プログラミング」の項で執筆されているほか、ウェブでも公開されている博論「音楽土木工学を設計する——音楽プログラミング言語mimiumの開発を通じて」がかなり面白いのでおすすめです。

以下に開催概要と自分からの前口上を添えておきます。内容は上掲のウェブページとかわりありませんが……。

「基礎教養シリーズ〜ゼロから聴きたいテクノロジーと音楽史〜」開催概要

講 師:imdkm/ゲスト:松浦知也
日 程:2024年2月25日(日)
時 間:13:00〜17:00 ※延長の可能性あり
開 催:対面/オンライン
参加費:対面・・・1,650円(アーカイブ付き、税込み) ※先着25名
    オンライン・・・1,100円(アーカイブ付き、税込み)
    美学校在校生(オンライン)・・・550円(アーカイブ付き、税込み)
    アーカイブのみ・・・1,650円(税込み) ※2/27日より販売開始
会 場:美学校2F教室
    東京都千代田区神田神保町2-20-12 第二冨士ビル 2階
    https://goo.gl/maps/th8HqeciE7dRfDdK8
    ※会場まではビル内の階段を利用してご来場ください
主 催:美学校

参加はPeatixからお申し込みください。

言うまでもなく、音楽とテクノロジーは深い関係を持っています。音楽制作においても、流通においても、受容においても、テクノロジーは音楽という営み全体に浸透しきっています。とりわけ20世紀以降、録音芸術として著しく発展したポップ・ミュージックを考える上で、音楽とテクノロジーの関わりを考えることは非常に重要です。

なにより、テクノロジーは音楽への手段であるのと同じくらい、音楽を聴き、語る手がかりになります。どんな道具をつかって、どのように制作されているか? どんな技術的状況で、どのように受容されてきたのか? そんな問いを意識することで、音楽を聴いたり、解釈したり、語ったりする方法がより豊かになるはずです(文化的なコンテクストを知ったり、音楽理論による分析をするのと同じように)。この講座の目論見はまずもってこの点にあります。つまり、「聴き方」「語り方」の拡張です。

しかし、音楽をより深く知るための枠組みとしてテクノロジーを援用する際に、テクノロジーの側が抱える文化的なバイアスを無視することはできません。テクノロジーは音楽の可能性をひらくと同時に、クリエイティヴィティを制限することもままあります。そして、しばしばその可能性と限界は、社会的・政治的な条件とむすびついているのです。とすれば、音楽への理解を深めるのと同じくらい、テクノロジーに対しても理解を深めなければ、「音楽とテクノロジー」をめぐる語りは大きな盲点を抱え込むことになるでしょう。

この講座では、音楽とテクノロジーがどのような関係を築いてきたかを検証しながら、それがいかなる課題に直面しているかの問題提起もしたいと思っています。「音楽とテクノロジー」が主役ではありますが、このふたつを社会的・政治的なコンテクストへと開いていくことが本講座の裏テーマです。

先に「20世紀以降、録音芸術として著しく発展したポップ・ミュージックを考える上で、音楽とテクノロジーの関わりを考えることは非常に重要」だと書きましたが、単にその状況を「よりよく理解する」ために重要なのではなく、むしろ状況に批判的に介入するためにこそ、音楽とテクノロジーの関わりを改めて考えることが重要なのです。

あまりに広いテーマなので、今回の講座では、音楽制作の現場におけるテクノロジーに焦点をしぼりたいと思います。また、現在の音楽制作において欠かすことができないインフラとしてのコンピューティング/ソフトウェア開発に造詣が深い松浦知也さん(東京藝術大学)をゲストにお招きし、議論を深めたいと思います。

音楽制作にフォーカスする性格上、音楽を自分でつくっている人や、つくることに興味がある人に特に興味深く聞いていただける内容になるのではないかと思います。とはいえもちろん、音楽を聴くこと、音楽について語ることに関心がある人にも楽しんでいただけるはずです。

【オープン講座】「基礎教養シリーズ〜ゼロから聴きたいテクノロジーと音楽史〜」 | 美学校 (bigakko.jp)
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ポプミ会アドバンス(Simon Reynolds『Retromania』読書会)第二期開催のお知らせ

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何度か書いてますが、昨年から「ポプミ会アドバンス」と題して、Simon ReynoldsのRetromania: Pop Culture’s Addiction to its Own PastAmazon商品ページ)の読書会を開いております。昨年いっぱいで一章分を読み切って、区切りが良いので仕切り直してスタートする予定です。

ポプミ会アドバンス第二期は、2月11日(日)19時~からポプミ会Discordサーバーで行う予定。もし関心のある方はこちらのリンクからサーバーに参加ください(リンクは投稿日の1月19日から一週間有効)。

この本は特に2000年代に顕著になった(という)ポップカルチャーの過去への耽溺を扱った本で、過去を絶え間なく参照しつづけ、ひたすら「リバイバル」を繰り返すポップカルチャーに未来はあるのか? という話をしています。まあ10年以上前(原著刊行は2011年)の本なのでいまから見て牧歌的に思えるところも多々あるんですが、一方で、基本的な問題意識は古びていないばかりか、もっと切実になっているようにも思われます(実際、この本へのアクチュアルな応答として、柴崎祐二『ポップミュージックはリバイバルをくりかえす 「再文脈化」の音楽受容史』が著されています(Amazon商品ページ))。

「レトロ」そのものに興味なくとも、2000年代の(英語圏の)ポップカルチャーや、あるいはインターネット以後のクリエイティヴに興味あればおもしろく読めるかと思います。Daniel LopatinとかプロトVaporwave的なトピックも結構出てくるのがわかりやすいアピールポイントかも?

まあまあスローペースで、参加者がそれぞれ数パラグラフの担当箇所を翻訳して持ちより、ああだこうだと喋る会です。翻訳さえ仕上げてもらえば機械翻訳などを活用してもらってまったく構いません。2月11日(日)の初回は改めての顔合わせとこれまでの振り返り、今後の進め方についての話し合いをする予定です。もし関心がある方はお気軽にどうぞ。

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