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imdkm.com 投稿

[告知]美学校にて「基礎教養シリーズ〜ゼロから聴きたいテクノロジーと音楽史〜」を開催します

2月25日(日)に神保町・美学校にて「基礎教養シリーズ〜ゼロから聴きたいテクノロジーと音楽史〜」を開催します。昨年頒布したZINE「音楽とテクノロジーをいかに語るか」をベースに、音楽とテクノロジーの関わりについて考える4時間(!)となっております。

自分からはイントロダクション的なトーク+テクノロジーにおける「脱植民地化」をテーマにしたトークの2本をお送りするほか、ゲストに東京藝大の松浦知也さんをお招きし、現代の音楽制作に欠かすことができないコンピューター/コンピューティングについてお話していただきます。

松浦さんのお仕事は公式ウェブサイトでうかがい知ることができますが、『クリティカルワード ポピュラー音楽』に「プログラミング」の項で執筆されているほか、ウェブでも公開されている博論「音楽土木工学を設計する——音楽プログラミング言語mimiumの開発を通じて」がかなり面白いのでおすすめです。

以下に開催概要と自分からの前口上を添えておきます。内容は上掲のウェブページとかわりありませんが……。

「基礎教養シリーズ〜ゼロから聴きたいテクノロジーと音楽史〜」開催概要

講 師:imdkm/ゲスト:松浦知也
日 程:2024年2月25日(日)
時 間:13:00〜17:00 ※延長の可能性あり
開 催:対面/オンライン
参加費:対面・・・1,650円(アーカイブ付き、税込み) ※先着25名
    オンライン・・・1,100円(アーカイブ付き、税込み)
    美学校在校生(オンライン)・・・550円(アーカイブ付き、税込み)
    アーカイブのみ・・・1,650円(税込み) ※2/27日より販売開始
会 場:美学校2F教室
    東京都千代田区神田神保町2-20-12 第二冨士ビル 2階
    https://goo.gl/maps/th8HqeciE7dRfDdK8
    ※会場まではビル内の階段を利用してご来場ください
主 催:美学校

参加はPeatixからお申し込みください。

言うまでもなく、音楽とテクノロジーは深い関係を持っています。音楽制作においても、流通においても、受容においても、テクノロジーは音楽という営み全体に浸透しきっています。とりわけ20世紀以降、録音芸術として著しく発展したポップ・ミュージックを考える上で、音楽とテクノロジーの関わりを考えることは非常に重要です。

なにより、テクノロジーは音楽への手段であるのと同じくらい、音楽を聴き、語る手がかりになります。どんな道具をつかって、どのように制作されているか? どんな技術的状況で、どのように受容されてきたのか? そんな問いを意識することで、音楽を聴いたり、解釈したり、語ったりする方法がより豊かになるはずです(文化的なコンテクストを知ったり、音楽理論による分析をするのと同じように)。この講座の目論見はまずもってこの点にあります。つまり、「聴き方」「語り方」の拡張です。

しかし、音楽をより深く知るための枠組みとしてテクノロジーを援用する際に、テクノロジーの側が抱える文化的なバイアスを無視することはできません。テクノロジーは音楽の可能性をひらくと同時に、クリエイティヴィティを制限することもままあります。そして、しばしばその可能性と限界は、社会的・政治的な条件とむすびついているのです。とすれば、音楽への理解を深めるのと同じくらい、テクノロジーに対しても理解を深めなければ、「音楽とテクノロジー」をめぐる語りは大きな盲点を抱え込むことになるでしょう。

この講座では、音楽とテクノロジーがどのような関係を築いてきたかを検証しながら、それがいかなる課題に直面しているかの問題提起もしたいと思っています。「音楽とテクノロジー」が主役ではありますが、このふたつを社会的・政治的なコンテクストへと開いていくことが本講座の裏テーマです。

先に「20世紀以降、録音芸術として著しく発展したポップ・ミュージックを考える上で、音楽とテクノロジーの関わりを考えることは非常に重要」だと書きましたが、単にその状況を「よりよく理解する」ために重要なのではなく、むしろ状況に批判的に介入するためにこそ、音楽とテクノロジーの関わりを改めて考えることが重要なのです。

あまりに広いテーマなので、今回の講座では、音楽制作の現場におけるテクノロジーに焦点をしぼりたいと思います。また、現在の音楽制作において欠かすことができないインフラとしてのコンピューティング/ソフトウェア開発に造詣が深い松浦知也さん(東京藝術大学)をゲストにお招きし、議論を深めたいと思います。

音楽制作にフォーカスする性格上、音楽を自分でつくっている人や、つくることに興味がある人に特に興味深く聞いていただける内容になるのではないかと思います。とはいえもちろん、音楽を聴くこと、音楽について語ることに関心がある人にも楽しんでいただけるはずです。

【オープン講座】「基礎教養シリーズ〜ゼロから聴きたいテクノロジーと音楽史〜」 | 美学校 (bigakko.jp)
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ポプミ会アドバンス(Simon Reynolds『Retromania』読書会)第二期開催のお知らせ

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何度か書いてますが、昨年から「ポプミ会アドバンス」と題して、Simon ReynoldsのRetromania: Pop Culture’s Addiction to its Own PastAmazon商品ページ)の読書会を開いております。昨年いっぱいで一章分を読み切って、区切りが良いので仕切り直してスタートする予定です。

ポプミ会アドバンス第二期は、2月11日(日)19時~からポプミ会Discordサーバーで行う予定。もし関心のある方はこちらのリンクからサーバーに参加ください(リンクは投稿日の1月19日から一週間有効)。

この本は特に2000年代に顕著になった(という)ポップカルチャーの過去への耽溺を扱った本で、過去を絶え間なく参照しつづけ、ひたすら「リバイバル」を繰り返すポップカルチャーに未来はあるのか? という話をしています。まあ10年以上前(原著刊行は2011年)の本なのでいまから見て牧歌的に思えるところも多々あるんですが、一方で、基本的な問題意識は古びていないばかりか、もっと切実になっているようにも思われます(実際、この本へのアクチュアルな応答として、柴崎祐二『ポップミュージックはリバイバルをくりかえす 「再文脈化」の音楽受容史』が著されています(Amazon商品ページ))。

「レトロ」そのものに興味なくとも、2000年代の(英語圏の)ポップカルチャーや、あるいはインターネット以後のクリエイティヴに興味あればおもしろく読めるかと思います。Daniel LopatinとかプロトVaporwave的なトピックも結構出てくるのがわかりやすいアピールポイントかも?

まあまあスローペースで、参加者がそれぞれ数パラグラフの担当箇所を翻訳して持ちより、ああだこうだと喋る会です。翻訳さえ仕上げてもらえば機械翻訳などを活用してもらってまったく構いません。2月11日(日)の初回は改めての顔合わせとこれまでの振り返り、今後の進め方についての話し合いをする予定です。もし関心がある方はお気軽にどうぞ。

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[Soundmain Archive] 有元キイチ(a.k.a Tondenhey / ODD Foot Works)インタビュー(三浦透子「私は貴方」作編曲ほか)(2022.06.29)

濱口竜介監督の映画『ドライブ・マイ・カー』でも注目を集めた俳優の三浦透子がリリースしたシングル、「私は貴方」。ピアノやサックスのアコースティックなサウンドを軸に、テクスチャ重視のビートレスな構成が生み出す浮遊感と、不思議な譜割りの反復が生み出す粘るようなグルーヴが印象的な一曲だ。アンビエントと歌モノとしてのポップが重なり合う、以前取り上げた森山直太朗「素晴らしい世界」と共振するような作品と言えよう。

心と身体にすっと染み込んでいくようなノスタルジアとスリリングな響きが同居するこの曲で作詞・作曲・編曲を担当したのは、Tondenhey名義でODD Foot Worksのギタリスト及びメインコンポーザーとしても活動する有元キイチだ。これまでサウンドプロデュースで他のアーティストとコラボレーションしたことはあったものの、表立った楽曲提供はこれが初めて。しかし、ODD Foot Worksのビートオリエンテッドなイメージとはまったく異なる「私は貴方」は、その音楽性の広がりを感じさせる力強い一曲たり得ている。

そんな「私は貴方」をめぐる本インタビューでは、そのユニークな制作プロセスや新しい感覚を持ったミュージシャンとの出会い、往年のヒット曲の再解釈など、率直で興味深いお話を聞くことができた。

三浦透子「私は貴方」

「縛り」が形づくるユニークなグルーヴとサウンド

「私は貴方」はODD Foot Worksでのヒップホップ的なビートオリエンテッドなサウンドとはかなり異なっていますよね。今回の楽曲はどのように着想していったんでしょうか。

ODD Foot Worksによる2020年リリースのEP「Qualification 4 Files」

元々、ソロをやりたいなと思ってデモを作り始めていて。テーマとしては、自分が普段頼りがちな部分であるビートとギターをあえて使わないことで、逆にこれまで作ってきたビートの感じや、自分のギターが聞こえてくるんじゃないかというのがありました。そんな思考で作っていたソロのデモを、うちのマネージャーが三浦さんが所属するレーベルであるEMI Recordsの担当ディレクターに送ったことがきっかけで、依頼をいただいて作ったのがこの曲です。

「三浦さんに提供するぞ」と思って作ったというより、元々ご自身の中で挑戦してみたかったことを実践した結果なんですね。

そうですね。三浦さんに最初にお会いした時から、音楽よりもテクスチャーが聴こえるようなものを作りたいという自分の考えはお伝えしていて。でも、実際にお話ししていくうちに固まってきた部分も多いです。

最初のデモは打ち込みですか?

はい、最初はピアノ1本でした。僕はピアノがあまり弾けないので、これも自分が慣れていない手段でやる、みたいな縛りのひとつです。そうして出来た土台に、サックスやギターを重ねていきました。

ちなみにサックスもギターもプレイヤーの方に来てもらって、八畳ぐらいのワンルームの自宅で録りました。近所から苦情が来ないかどうか、心配になりながら……でもそれも制約として良かった。全部がボソボソ鳴っている感じなんですけど、スタジオに入った時にも、「なんでこれが良く思えるのか」を考えて、意識的に再構築していきました。

この曲は展開の仕方が面白いなと思っていて。場面ごとにいったん舞台が暗転して次の場面に、みたいな感じで、パートごとに止まって、また動き出すみたいな動きが何回かあります。ある意味で演劇的とも言える印象を受けました。

はじめはひとつの縛りとして、ワンメロディ……つまりメロディを1つにしようと思っていたんです。よくある、イントロ~Aサビ~Bサビみたいな構造からは外れようと。ただ、やってみると変化がなさすぎて聞き応えがなかった。そこに展開をどうつけるかを模索して、結果的にそういう作りになりました。

基本的にビートらしいビートはほぼない曲で、各パートも、ピアノを除くとリズムを強調する要素が少ない。でも、ヴォーカルの譜割りはとてもユニークなグルーヴを感じさせるものになっています。

ワンメロディという縛りに加えて、最初は歌詞をすべて「五七五七七」で行けないかという考えがありました。でも、そのリズムに乗せるとなると、どうしてもポエトリーリーディングみたいな感じになってしまう。試行錯誤して最初の「五七五七七」を変形させていく中で、拍から逸脱した音が出てきたりするのを楽しみながら作っていきました。

偶然の出会いから生まれた印象的なアレンジ

「私は貴方」で耳を惹きつけるのは、数多くフィーチャーされたアコースティックな楽器の音色です。サックス、ピアノ、ギター、シンバルといった楽器の編成は、どのようにして選んでいったのでしょうか。

自分以外の人の手を借りたかったので、ぱっと目についた人に声をかけてみることにしたんです。それで、渋谷のTOKIO TOKYOというライブハウスでODD Foot Worksとしてライブをやったときに、バーカウンターにいた人に「最近Shazamした曲とかある?」って話しかけたんですね。そうしたら、いま面白いと思ってる音楽が自分とめちゃくちゃ似ていて。聞いたらサックスを吹いていると言うので、もう録らせてもらおうと。

それが今回サックスを吹いてもらった内田恵里花さんです。元々はサックスを入れる予定もなかったんですよ。サックスプレイヤーってフレーズ重視の人が多い気がするんですけど、内田さんはテクスチャーの部分で微細な変化を楽しませるような表現をしたいと言っていて。「あ、こういう人っているんだ」「神様ありがとう」って感じでしたね。

すごい出会いですね。サックスはこの曲の中でもとりわけ印象的で、重要な役割を果たしている楽器だと思うので、今の話はかなり意外でした。

ひさびさにすごく面白い出会いでした。内田さんは自分からアイデアも出してくれて、後半のアタックの遅い音は彼女の吹いたサックスの音を逆再生したものです。

そうなんですね! あのアタックの遅いサウンドが入ってくると、ボーカルのリズムの面白さが際立ちますよね。後半、ほぼその音とボーカルの絡みだけになるパートがあって、すごく好きなんです。

わかります。自分の中でもあれが一番予測できなかった構成でした。あのおかげでサビで拍の取り違えが起きるというか。ちゃんと構造を言語化することはできないんですけど、ちょっと変拍子チックに、大きな3拍子に感じられるんですよね。

その他のプレイヤーの方はどういった経緯で参加されたのでしょう。

ギターの馬場貴博さんは、大学のジャズ研時代の先輩です。彼の弾くギターがもともと好きだったんですけど、内田さんとサックスを録り終わったくらいのときに、「ちょっと馬場さん呼んでみよう」という話になり、また家に呼んで録らせてもらいました。

有元さん自身もギターを弾かれますけど、今回は他の方にお願いしたんですね。

自分で弾くのはODD Foot Worksがありますし、ギターすらも別の人に頼めるという楽しさがソロにはあると思っていて。最近はまた弾きたいとも思ってきているんですけど、今回は他のギタリストを呼びたかったんです。

ピアノの坂本龍司君……というのは、実は偽名なんですけど(笑)。すごく気心が知れている、一番わかりあっている人です。大学時代のジャズ研の同期で、当時からよく一緒にセッションをしていて。ODD Foot Worksの初期の作品でも、めちゃくちゃ弾いてもらっています。

ODD Foot Works「夜の学校 Feat. もののあわい」(2017年)

あとは、小林隆大君がシンバルで参加してくれています。もともと小林君を誘うつもりはなかったんですけど、デモを聴いてもらったところ、「ここにスモークを足したい」と言ってきて。抽象的すぎて、うまく理解できない部分もあったんですけど……任せてみようと出来上がったものを聴いてみると確かに、小林君の音が全体にスモークをかけたり、晴らしたりしてくれていると思います。

そんな感じで、今回参加してくれた人たちはみんな楽器のプレイヤーなんだけど、テクニックを見せたいわけじゃなくて、楽器の音を聴かせたい人たちなんです。

そうしたプレイヤーの皆さんの様々なアイデアから成り立っている楽曲でもあるんですね。

そうですね。ただ、こちらからお願いしているところもあって、例えばイントロの直後に入っている、サックスを吸い込む音なんかがそうです。サックスという楽器は普通、楽器の中に息が吹き込まれて音が出るものですけど、逆に吸い込んだ音を使ってみたいなと。逆再生にも通じる「反転させる」みたいなテーマは、自分の中にあったのかもしれないと思いますね。

ソロ活動を通じて変化するDAWへの向き合い方

録音とミックスを担当されているのは、佐藤慎太郎さんですね。

「こういう音像を作りたい」というイメージは最初からあったので、慎太郎君にリファレンスの曲を何個も送りました。そこから僕の知識では理解できない部分もだいぶ慎太郎君が汲み取って、仕上げてくれましたね。

具体的には、実音よりも楽器に触れている音が出る音楽にしたくて。僕はライブで演奏する機会も多いんですが、外に出る音と自分の中で感じる音では全然違うという感覚があります。ギターのピッキングをする音や、ピアノのタッチノイズやペダルを踏む音、そういう接触音みたいなものをいっぱい入れたい、と慎太郎君に伝えました。録音する時にもマイキングの位置を一緒に探りました。 サックスのベルの中にタオルを突っ込んだり、ピアノの弦の上に毛布を敷いたり、できるだけプレイヤーが体感している音を大きめに録るということを意識しました。

そういったプレイヤーとして感じているサウンドに注目するアプローチは、打ち込みの比重が高いODD Foot Worksとはかなり異なりますよね。それは意識的な差別化の結果なのでしょうか。

ソロを始めた時にはあまり意識していなかったですね。最近になって、「バンドとは別に自分が表現したいことがある」と気づいてきました。

普段デモやビートを作るときの環境は?

Logic Pro Xを使っています。ただ、今はDAWを「録音データをまとめる場所」に変えたくなってきていて。昔はDAWは「打ち込みをする場所」だったんですけど、特にソロ活動では「録った音を並べる場所」に変わっていっています。いろんなアプローチのビートを作ってきて、 やり切っちゃった部分も自分の中にあって。

そうした変化にともなって、ソフトウェアの使い方で何か変わったことはありますか。

DAWから発想することに飽きちゃっていて、「こういう音にしたいから、こういうデジタルの処理が必要だな」と考えるようになっています。たとえば「私は貴方」では、「過去」とか「連想」を表現するために、奥行きや立体感を作りたくて、それで声を最初からステレオにするみたいな発想が出てきたんです。

オフコース、ブレイク・ミルズ、広瀬香美――変わっていく聴き方

三浦透子さんのYouTubeラジオにご出演された際には、Apple Musicのプレイリストを併せて公開されていましたよね。吉田美奈子やジョニ・ミッチェル、ジェイムス・テイラーなどを選曲されていましたが、こうした70年代のシンガーソングライターの楽曲がリファレンスとしては多かったのでしょうか。

三浦透子 YouTube Radio -試運転- vol.1 (Guest / 有元キイチ from ODD Foot Works)

あそこで紹介した楽曲は、リファレンスで共有したものとは違いますね。そういえば、言われて思い出しましたが、オフコースの「老人のつぶやき」(1975年)という曲を「なんでこんな音がいいんだろう」と思って慎太郎君に共有しましたね。「みんなのうた」からの依頼を受けて作られた曲らしいんですけど、タイトル通り老人が死ぬ話なので、不採用になったという逸話があって。番組とは完全に真逆のことをしようというアイデアも好きです。

オフコース「老人のつぶやき」(1975年のアルバム『ワインの匂い』より)

他に「これは!」と思ってリファレンスにした楽曲はありますか。

ジョン・レジェンドをブレイク・ミルズがプロデュースした曲を送りましたね。いまは曲を聴くときもつくるときも、サウンドに奥行きをどう作っているかを一番チェックしていて、ブレイク・ミルズにはそういう意味ですごく影響されています。

ジョン・レジェンド『DARKNESS AND LIGHT』(2016年)。全曲をブレイク・ミルズがプロデュースしている(共同プロデュースも含む)。

あと、それとは全然違う観点なんですけど、広瀬香美の「ロマンスの神様」をよく聞いています。すごく近未来的な音像で、マイケル・ジャクソンが歌っているみたいに聞こえるんですよね。かつ「土曜日遊園地 一年経ったらハネムーン」とか、歌詞の言葉も節回しと一体となった立ち方をしていて。バブル時代の能天気さもあると思うんですけど、 今聞くと、また別の解釈ができる。時間が経ったからこそやっと全体像で聞けるという感じはありますよね。「こんな変なギター入れてるんだ」とか、「サビ前でこんなに訛るのか」とか。

広瀬香美「ロマンスの神様」

最近ストリーミングのレコメンドで知った尾崎友直『Slow motion』というアルバムが面白かったんですが、全部30秒とかで曲が終わるんですよね。結構似たり寄ったりの曲やアルバムが多い中で、コンセプトから自由に作っている人は面白いと思います。

尾崎友直『Slow motion』

確かに。ちなみに、広瀬香美を再発見したきっかけは?

King Gnu「白日」やOfficial髭男dism「Pretender」のカバー動画です。めちゃくちゃハードにスイングして歌う節回しが面白いし、トラップとかの文化にもちょっと近いように感じて。「曲自体もそういう節回しで書いてるのかな」と聴いてみると、確かに通じるところがあるんですよね。

広瀬香美によるKing Gnu「白日」のカバー演奏動画

「私は貴方」を経た、ソロ活動の現状

現在はODD Foot Worksとしても活動されているところですが、ソロ名義でのリリースの予定はありますか。

アルバムを作りたいとは思うんですけど、ライフワークみたいな部分もあるので、〆切を決めていついつまでに……という感じでは今のところないですね。これまで聞いてこなかったような音楽を色々聴いて、インプットを増やしていきたいと思っているところです。ずっと制作してはいるので、スタジオワークの前に地図を作っている状態ですね。

「私は貴方」は初めての楽曲提供でしたが、かなり反響もあったんじゃないですか。

《VIVA LA ROCK》というフェスに出たときに、飲食ブースで結構な数のアーティストに曲のことについて言われましたね。今まで経験したことのない感じのリアクションを聞けて、すごく嬉しかったです。

特に印象深かったリアクションは?

「私は貴方」っていう言葉自体の発明を褒めてくれたのが一番嬉しかったです。「これ言った人いないよね」みたいな。言葉が聞こえるということは、すなわちサウンド面とも不可分に作れているということなんだと思えましたし。

今後もこうした提供のお仕事はやっていきたいと思われますか。

はい。たとえば、超明るい曲をこの感じで表現できたら面白いと思っていて。音像的にもすごく完成度が高く、かつ、もっとアップテンポな曲というか。なので、仕事を待っている状態です(笑)。

楽しみです。今回はさまざまなお話を伺えてとても嬉しかったです。ありがとうございました。

こちらこそ、ありがとうございました。

取材・文:imdkm

有元キイチ プロフィール

1995年生まれ、東京都多摩市出身の音楽家。

多様なジャンルを横断するヒップホップグループ、ODD Foot Worksのギター/サウンドプロデューサーとして2017年にデビュー。

以降、グループでは独創的かつ大衆性にも富んだ音楽像を担うキーパーソンとなり、個人としては佐藤千亜妃(きのこ帝国)のサウンドプロデュースを手がけ、池田エライザの楽曲制作などにも参加。

2021年12月には有元キイチ名義で初のソロライブを開催。深淵なメロウネスをたたえた未発表の新曲群を体現しソロアーティストとしての新たな可能性を提示した。 2022年3月、三浦透子「私は貴方」の作詞、作曲、編曲及びサウンドプロデュースを手がけた。

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なんか知らんがヨドバシで豆が安い

なんか知らんがヨドバシで豆が安い。

ヨドバシ・ドット・コムでのチャナダール(ひよこ豆)の商品ページのスクリーンショット

ヨドバシ.com – アンビカ Ambika 14001 チャナダール 1kg 通販【全品無料配達】

ヨドバシ・ドット・コムでのマスールダル(赤レンズ豆)の商品ページのスクリーンショット

ヨドバシ.com – アンビカ Ambika レッドレンティル豆(マスールダル) 1kg 通販【全品無料配達】

その他にもこれでもかという品揃えでめちゃくちゃ豆があり、安い。いま見たら「お取り寄せ」になってたけど。種類によってはまだ在庫ある。自分は発見次第即注文し、翌日には届いた。

赤レンズ豆はトマトスープにして、ひよこ豆はファラフェルにして食べている。

スープは適当に野菜を放り込んで煮込んでいるだけだが、ファラフェルはいくつかネットで見れるレシピ(これとかこれとか)を参考にして、ノンフライヤーで加熱している。最初につくったときは食べれなくはないがぱっさぱさで仕方なかったが、きちんと浸水してあまり細かくペーストにしすぎないように気をつけて、つくるごとにおいしくなっている……気がする。

ホブズ(ピタ)も自分で焼いて、カット野菜なんかをあわせてサンドイッチにすると、安い割にちょっとしたものを食べた気分になって、良い。

器に盛り付けられたファラフェルサンド
器に盛り付けられた赤レンズ豆のスープ

2024年は「豆」と「酸味」が来ます。これは予言です。

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AKAI MPC500日記 ふたたび触り始めるの巻

昨年、AKAI MPC500を中古で安く買った。Roland SP-404系を買うことも考えたのだけれど、MPCを使ってみたかったこともあって、電池駆動もできてちっちゃなMPC500にした。フィンガードラムをがっつりやるにはパッド数も少ない(ふつう16あるのが12しかない)しちょっとパッド自体も小さい(とはいえ大きさ自体はMPC1000と同じはず)のだけれど、チョップ・アンド・フリップで多少遊べればいいかなと。

買った当時いろいろいじってからしばらく離れていて、年明けに初売りでレコードをちょいちょい買ったのでいっちょ遊んでみるかと改めていじりはじめた。

液晶も小さいしモードの遷移が結構要るので操作性は必ずしも直感的ではないけれども、要領を覚えればそこまで難しくはない。クイックスタートガイドを一通り読めば操作に困難を覚えることもない。とはいえ、野生のTipsをいろいろ覚えたほうがよい。

↑これが多分いちばんはやい

ヴェロシティでサンプルのスタートポイントを変える機能を使って擬似オートチョップをやるTips、これはサンプルによってハマるかハマらないか大きそう。

とりあえず某ファイセットの曲からワンループサンプリングしてチョップ、いじるなどしていた。これだけで時間がものすごく溶けるのであれですね。慣れてきたらビートテープのひとつでもつくりたい。凝ったフリップをやるまで上達すればいいが……。まあワンループ+αでざっくりやるのも美学といえば美学。

PCに溜めてあるワンショット系のサンプルをUSB連携でMPCに送ってビートを組む、みたいなこともやってみたい(それこそアーメンを叩く的な)が、それはまた今度。こういうのやりたいですな。

昨今、ハードオフはじめとした中古ショップでの楽器の値段が結構高くなっているのに加え、メルカリやヤフオクの相場もぐっと上がってしまったので、「中古の安い楽器を遊び倒す」というのがなかなかやりづらくなってしまった。こういうのは一期一会なので安く発見したときには迷わず買ったほうがいいですね。MC-505が壊れて久しいので買い直したいんだけど、あまり量も出回っていないし、相場もちょっと高め。むつかしいね。

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[Soundmain Archive] Akiyoshi Yasudaインタビュー(森山直太朗「素晴らしい世界」編曲ほか)(2022.05.26)

2022年3月にリリースされた森山直太朗のニュー・アルバム『素晴らしい世界』。アーティストのデビュー20周年を飾る本作は、新型コロナ禍の影響で活動が停滞し、更には自身も新型コロナに感染するという苦境を乗り越えて完成した。その表題曲であり、新型コロナ禍の経験を刻み込んだ「素晴らしい世界」は、7分40秒にわたって繊細なサウンドが紡がれるアンビエント的なポップ。ノイズやリバーブの響きがメロディと言葉に深い陰影を加えていくこの曲は、筆者にとってこの春もっとも印象的な楽曲だった。

そんな「素晴らしい世界」のアレンジを手掛けたのが、Akiyoshi Yasudaだ。SiZK名義ではおよそ20年にわたってJ-POPの作編曲・ミックスなどを手掛け、★STAR GUiTARとしてダンスオリエンテッドなアーティスト活動も展開。Akiyoshi Yasudaとしては、劇伴提供のほか、パーソナルなアンビエント作品を発表してきた。実は、Yasudaが森山直太朗とタッグを組むのは「素晴らしい世界」が初めて。「素晴らしい世界」を手掛けるに至ったきっかけから、そのサウンド作り、そして多様な分野をまたいで活動することによるクリエイティビティへの刺激まで語ってもらった。

森山直太朗「素晴らしい世界」

「素晴らしい世界」との出会い

まず、どのような経緯で「素晴らしい世界」に携わることになったんでしょうか。

直太朗さんのマネージャーさんが僕と以前仕事をしていて、そこからの紹介です。ある日突然、「SiZKさんここ来れますか? ナオタロウが会いたがってます」って場所を指定されたんです。「ナオタロウって……? ああ、森山直太朗さん!?」みたいな。仕事なのかどうかもわからなかった。

そこで直太朗さんが、「こんな曲があるんだよね。これをSiZKくんとできるかな」って「素晴らしい世界」のデモを聴かせてくれて。ピアノとパイプオルガン、歌だけのデモでした。合わせてこの曲が出来た経緯もお話してくださって。その上で聴いたら、僕自身もちょっとプライベートでいろいろあったことも重なって、いきなり初対面で泣いてしまって。

その場で、ですか?!

はい。それで、「めちゃくちゃいいですね、これ」「僕が関わるならこういうことができますよ、こういうこともできますよ」って、止まることなくばんばん喋っていました。僕のなかではそこからほとんど一本道で、最初の構想から完成までそんなにブレていません。

もともと、デモの段階で曲自体が完全に出来上がっていて。闇から光に向かっていくような曲なんですけど、その陰の部分、ダークさが欲しいんだろうなと思いました。そこが表現できれば、陽の部分が際立つ。そう意識しながらアレンジしていきました

その場でアイデアを伝えたときの直太朗さんの反応は?

それが、これでもかというぐらい褒めてもらえて(笑)。すごく嬉しかったのが、デモを上げたとき、直太朗さんは外でそれを聴いたそうなんですが、「嗚咽するぐらいよかった」って言ってもらえて。

Yasudaさんも直太朗さんもお互いのデモで泣いたと……。

そう言われるとそうですね(笑)。

この曲、7分40秒とけっこうな尺じゃないですか。

時流とは真逆を行っていますよね。デモのときからあの尺でした。

これだけの尺をサウンド面で構成していく上で、気を配ったことはありますか?

僕としては、この曲が長いとはあまり感じなくて。構造的にはほぼ繰り返しじゃないですか。もともと僕はテクノ上がりなので、ミニマルなものも聴いてきたんです。なので、テンポ感やジャンル感は違いますけど、自分なりのやり方はいろいろ持っていました。

なるほど。ループベースで、音響が微細に展開していくような構造には親しみがあったと。

そうですね。そこで今回は、ギミックをいっぱい作ることを考えました。聴いていてもすぐにはわからないような小さな仕掛けをどんどん積み重ねていくというか。その上で、自分でもやってきたアンビエントなサウンドでちゃんと色付けしていくという感じですね。

楽曲のメッセージを際立たせるギミック作り

ギミックというと、ボーカルのリバーブがぱっと消える瞬間(動画[04:13])が一番インパクトがありました。聴いているといきなり直太朗さんが近づいてくるみたいな(笑)。そういったアイデアはどのように作っていったんでしょうか。

リバーブが切れるところは、直太朗さんの作る歌詞とメロディがすごく強いなと思ったんです。そこまでのアンビエントなサウンドデザインでは、感じられる世界が広いものであるはず。それをいきなり狭くして、歌い手がまるで目の前にいるようにしたら、聴く人をハッとさせられるし、言葉が入ってくると思ったんです。

他にも、前半で「うるさいな」みたいなひとりごとがぽつっと入りますよね。

あれは直太朗さんのアイデアです。最初はなかったのに、何回かやり取りしたら「あれ、なんか知らない言葉が入ってる」みたいな感じで、いつの間にか入っていました(笑)。それで「ああ、これは心の声みたいにしたいのかな」と思って、聴き手の正面には歌っている直太朗さんが立っていつつ、「うるさいな」という声だけは逆相を使って、後ろから聴こえてくるような雰囲気にしました。

もうひとつ、この曲は基本的に直太朗さんのボーカル一本で続いていきますが、後半になるとクワイアっぽい厚い合唱のパートが出てきて、しかも、それがあっさり消えてしまう。

それも直太朗さんからのアイデアです。基本的にはネット上でのやり取りだったんですが、最後にボーカルが入ったときに「ちょっと合唱みたいなのをやってみたら面白かったから入れてみたよ」くらいの感じでいただいて。僕も「じゃあクワイアっぽくしましょう」と言って広がりをつけた感じでした。

デモのやり取りは綿密にされていたんですか。

回数としてはそんなに多くないんです。トータルでは3,4回かな。お互い、行きたい方向がはっきりしていたので迷わなかったというか。直太朗さんから来たものには「じゃあこれならこれでどうですか」と返せたし、直太朗さんも「SiZKくんもっとノイズ入れていいよ」ぐらいの感じで。途中で入れすぎて減らすことにもなったんですけど(笑)。

ご自身の中でもっとも手応えを感じた部分は。

やはりリバーブを切ったところですね。周りでも何人かに反応してもらえて。そこに気づいてもらえると「よし!」ってなります(笑)。

そこまでの展開でがっつり曲に引き込まれるので、あれぐらいダイナミックな変化があると掴まれてしまいます。

経験上、「やるなら極端にやれ」と思っているんです。変化をさせたいなら、100か0にしたほうがいい。今回はその考えが活きていると思います。

素材の特性を活かし、“増幅”するサウンドメイク

楽曲を構成するサウンドとしては、ピアノがあって、ドローンがあって、サブベースが鳴って……と、シンプルなようで、さまざまなサウンドが重なり合っていますよね。

トラック数は多いですね。トータルではちゃんと数えてないんですけど、覚えているのは、グリッチノイズが30トラック以上ある(笑)。しかも、グリッチだけで30あるので、他のノイズも足したら50くらいあります。

ピアノはもともと、すごく弱く弾いて録音したものなんです。だから、演奏のノイズや服が擦れているような音も入っているんですよね。それがすごくいいなと思ったんですけど、ノイズをもっと増幅したくなった。僕の家の換気扇の音をiPhoneで録って、その「サーッ」というノイズを混ぜています。iPhoneのボイスメモの音が結構好きで、そういうのを普段から作品にちょこちょこ使っているんです。最近『N号棟』という映画の劇伴もやったんですけど、その時はうちの洗濯機を回しながらマイクで録音しました。

家電は面白いですよ。たとえば、冷蔵庫の中にiPhoneを入れっぱなしにして一時間録っておくとか。めちゃくちゃ冷えますけどね、iPhoneが(笑)。

『N号棟』予告編

環境音以外のグリッチノイズはどのように作られているんでしょうか。

グリッチは素材ものが多いです。LoopmastersやSpliceで入手できるような。グリッチじゃない素材を加工して使うこともあります。

サウンドもさることながら、やはり直太朗さんの声が印象的な曲でもあります。実際に一緒にお仕事をしてみて、直太朗さんの声についてどう感じましたか。

音程と音程のあいだを感じさせないような、すごくなめらかな声ですよね。あと、僕が普段作っている歌モノだとコーラスをいっぱい重ねることが多いんですが、直太朗さんのは聴いていて「ああ、ほとんどいらないな」と思います。この一本だけで十分と思えるぐらい説得力があるんです。逆に、ハーモニーを入れると邪魔しちゃうんじゃないかな。「素晴らしい世界」では重ねてもユニゾンとかオクターブだけで、3度とか5度のハモりはやっていないです。

使用されているDAWは何でしょうか。

僕はずっとMark of the Unicorn Digital Performerですね。テンポチェンジが自由にできるので一時期少しだけAbleton Liveを使っていましたけど、アップデートで結局DPで同じことができるようになっちゃったので、戻ってきました。

プラグインで何か重宝しているものはありますか。

めっちゃくちゃ普通ですけど、Native Instruments KONTAKTとかですかね。ストリングスはSpitfireです。Spectrasonics Omnisphereはドローンを作るのによく使いますし、リバーブではValhalla Shimmerをよく使います。Shimmerはとりあえずかけてみて、それから考えます(笑)。「素晴らしい世界」でもいっぱい使っていて、直太朗さんの声にも、ドローンにもかけています。

また、今回サブベースはXfer Serumのプリセットを使いました。普段はFAW Sublabも使っています。そのプリセットとVIRHARMONIC Bohemian Celloを合わせて、すごく低いところで使っています。ふたつを一緒にコンプにぶち込むと、位相が合っているのか合っていないのかよくわからない、地獄のようなベースになるんです。あと、この曲ではあまり強く出てはいないですけど、リズムはNative Instruments MASCHINEです。

3つの名義から辿る作風の変化

「素晴らしい世界」はAkiyoshi Yasudaとしてクレジットされていますが、普段J-POPのソングライター、アレンジ、ミックスで携わるときはSiZK名義を使っていますよね。今回この名義を使ったのはなぜでしょうか。

今回は、直太朗さんが「アンビエントができて歌モノもやったことがある、そういうのに精通している人いない?」と思ったところから僕に話が来たんです。アンビエントはまさにここ数年Akiyoshi Yasuda名義で追求してきたことなので、この名前でやらせてもらいました。直太朗さんと会話しているときは「SiZKくん」って呼ばれていますけどね。僕は名前が3個あるので、みんな呼び方に困っちゃうんです(笑)。

Akiyoshi Yasuda名義とは違って、SiZK名義ではダンサブルなサウンドを多く手掛けていますよね。もともとどんな音楽に影響を受けてこられたんでしょうか。

音楽に興味を持ったきっかけは小室哲哉さんなんですけど、実際に作る上で影響を受けてきたアーティストとしては、★STAR GUiTARという名前の由来になったThe Chemical Brothersはもちろん、一番好きなのはUnderworld。当時、映画『トレインスポッティング』を観てハマりました。あとはThe Prodityとか、ちょっとロックを感じさせるようなダンスミュージックに影響を受けています。15, 16歳のときにはビッグビートが流行っていましたし、同時に、音響系というかIDMと呼ばれるような、いまやっているアンビエントに通じるような音楽も大好きでした。

Underworld Born Slippy (Nuxx) Trainspotting Version 1996

その結果、ダンサブルなJ-POPというSiZKとしての作風が出来上がっていったんですね。

はい。最初のころはヒップホップの人たち――Heartsdalesさんとか、BENNIE Kとか――が僕のそういうテクノ感を面白がってくれて、一緒に作るようになりましたね。

BENNIE K「Sky」

★STAR GUiTAR名義では、バキバキのエレクトロハウスだった2000年代から、2010年代にさしかかると空間を感じさせるサウンドが増えてくるのが興味深いです。

★STAR GUiTARのセカンド・アルバムで初めてピアニストをフィーチャーしたんです。最初は歌の人をフィーチャーしようとしていたんですけど、なかなかメロディが作れなかった。そこでもしかしたらこれは歌じゃないのかも、と考えて、ピアニストをフィーチャーした「Live」ができました。そうしたら思いの外評判がよくて、自分もすごく楽しかったので、そのあたりから生楽器のほうにフォーカスしていって。その流れで空間的なサウンドに寄っていったんだと思います。

★STAR GUiTAR 「Live feat. Hidetake Takayama」

そういった関心の広がりが、最終的にアンビエントや劇伴仕事がメインのAkiyoshi Yasudaという名義に結実していった、と。新たな名義を使うことにしたきっかけは。

SiZKや★STAR GUiTAR名義で作品を発表する中で、意外と名前と音楽性の結びつきって強いんだなと実感したんですよね。どちらの場合にも、「こういう音楽をやる人」ってイメージがある。要はその2つの名前だと、今みたいにアンビエントを作れなかったんです(笑)。僕がそれまでやってきた音楽ってきらびやかなものが多かったので、内向的でダークな音楽は作りづらい。もしかしたらこれは名前を変えたほうがいいのかもしれないと思って、3つ目の名前として本名でやってみようと。

Akiyoshi Yasuda 「memento」

劇伴制作が拓いた新たなクリエイティヴィティ

3つの異なる性質の名義で活動する中で、ある名義での経験が別の名義に活きたことはありますか?

Akiyoshi Yasuda名義でやった音楽が、SiZKや★STAR GUiTAR名義でやる音楽に如実に影響を与えていますね。空間の使い方もそうですし、最近の★STAR GUiTARはもっとオーガニックで、少しシネマティックなダンスミュージックに寄ってきている。ポップスでもアンビエントなサウンドは最近流行っているので、SiZKとしてやっているポップスにもそういうテイストを入れたりしています。

Akiyoshi Yasudaで劇伴やアンビエントをやる、と決めたときに、ロールモデル的な人はいましたか?

もともと、「自分は劇伴をやっちゃだめだ」って勝手に思いこんでいたんです。ちゃんと音大に通って、クラシックを学んできたような人がやるべきものなんだと。そういう固定観念を破ってくれたのが、Nine Inch Nailsのトレント・レズナーや、ハンス・ジマーともよく仕事をしているJunkie XLでした。彼らはぜんぜん違う分野から劇伴の世界に入ってきているじゃないですか。そういうのを見ていたら、「ああ、入っていいんだこの世界」って思えたんです。

トレント・レズナーとアッティカス・ロスが音楽を手掛けた『WAVES』

実際に劇伴を手掛けるようになって、制作のスタイルで大きく変化したことはありますか。

シーンの内容に合わせて曲を作ってみたときに、初めて周りのミュージシャンの気持ちがわかったというか……。勝手にメロディが頭の中で鳴り出す、そういう感覚は劇伴をやるまでわからなかったんです。それまで、まずは鍵盤に向かって、とりあえず弾いてみて考える、という作り方をしてきたので。脚本や映像を見て「この感じでこの感情だったら、このメロディだな」というのが勝手に浮かぶようになった。

思い浮かんでも、その通りに作らないほうがいい場合もあります。でも、「このままだとストレート過ぎるな、全然逆の音楽をあてたほうが面白そうだな」と考えられるようになったのは、すごく面白い変化でした。

そういう変化を経験したからこそ、今回の「素晴らしい世界」のようなアレンジ……たとえば歌詞を音の変化で際立たせるようなこともできるようになった、ということでしょうか。

はい。僕は「素晴らしい世界」を短編映画だと思って作っているので。すごくいい経験をさせてもらいました。歌モノやってきた自分と劇伴をやってきた自分がちゃんと融合できた機会だったというか。

最後に、それぞれの名義でどんなビジョンがあるか教えていただけますか。

★STAR GUiTARはリリースを3年ぶりに始めたところで、来年に向けてシングルを出しつつアルバムに向かっていきたいと思っています。いまはエレクトロニックだけじゃない、オーガニックで躍動感のあるダンス・ミュージックのモードになっていますね。SiZKはマイペースに続けていくだけですね。いろんな人と出会って、いろんなことができればいいと思っています。Akiyoshi Yasudaでは映画音楽などの仕事もやりつつ、そろそろひさしぶりにこの名義での自分の作品も出したいなと思っています。

★STAR GUiTAR「貌」

取材・文:imdkm

Akiyoshi Yasuda プロフィール

美しさと儚さをエレクトロニックサウンド、ノイズの響きにのせ様々な感情を彩るインストゥルメンタル・アーティスト。

2020年、2年ぶりの新作となるアンビエント・ドローン・環境音楽の影響を感じさせるEP『memento -day1』を発表。自身のライフログとしてmemento (過去の体験・出来事などを思い出すために保管しておく小さな思い出の品)をテーマに記憶を記録していくプロジェクトを展開。

劇中音楽としては、広瀬すず主演『あんのリリック -桜木杏、俳句はじめてみました-』、NHK よるドラ『腐女子、うっかりゲイに告る。』世界で900万ダウンロード突破のスマートフォン向けゲームアプリを映画化した『劇場版 誰ガ為のアルケミスト』などの音楽を担当。

2021年には、人気TVアニメ『幼なじみが絶対に負けないラブコメ』、2022年公開の映画『N号棟』の劇中音楽も手がける。

また、劇中音楽に止まらず、その音像をアンビエントに昇華させた森山直太朗「素晴らしい世界」には編曲で参加し、独特の世界観は関係者からの高い評価を得ている。

https://www.studioselfish.com/

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2023年のベストトラック50

2023年のベストトラックを50曲選びました。もうここ数年新譜を追うのが心身の健康の問題もあって大変厳しく、50曲選ぶのだけでも大変だよ~と思ってましたがつくりだすと意外と音楽聴いてるな自分……となります。とはいえ、「音楽ライター」を名乗るにはあまりにも弱すぎる。よわよわ。2024年は、もうちょっとがんばって「音楽」に向き合いたいと思います。

さて、50曲のプレイリストは上掲のSpotify/Apple Musicの通りですが、10曲ピックアップしてコメントしたいと思います。

北村蕗 – amaranthus feat. 梅井美咲

山形を中心に10代の頃からピアノやギターの弾き語りを中心に活動を開始し、現在は東京に拠点を移してエレクトロニクスも取り入れたパフォーマンスを行う北村蕗がはじめて正式に音源をリリース。ピアニストの梅井美咲を招いた「amaranthus」は、その歌声もさることながら、繊細で奔放なメロディラインを支えるアレンジとプロダクションがいきなりものすごいクオリティで、素晴らしい「デビュー」作(といっていいでしょう)だった。そのままあれよあれよとフジロック出演や冨田ラボからのフックアップ(ドラマ「地球の歩き方」にて冨田ラボがサウンドトラック発表! | 冨田ラボ – Tomita Lab)にまで繋がり、コンスタントにリリースされるシングル群もふくめて、2023年の躍進がめちゃくちゃ印象的でした。

audiot909 – 秘密 feat. CHIYORI

ジャパニーズ・アマピアノのパイオニアことaudiot909のアルバム『Japanese Amapiano The Album』も全編素晴らしかったですが、アマピアノのクールなアツさを日本のR&Bの文脈と見事に接合したような「秘密」は出色の出来。歌モノポップにもアンダーグラウンドにも振れるダンス・ミュージックとしての懐の深さに身を預けつつ、日本でそれをやり抜くということの意義に真摯に向き合った成果として記憶されるべき1曲。

Anitta – Used To Be

2022年のコーチェラでファヴェーラを背景にダンサーたちモダンなポップとしてのファンキの存在感を示したパフォーマンスも印象的だったブラジルのポップスターAnittaのEPから1曲。聴いてみればわかるように、おなじみのリズムパターンを中心に据えつつもさまざまなジャンルの影響をスマートに消化したエクレクティックなサウンドになっていて、特にこの曲はR&B的なメロディラインやコーラスワークもキャッチー。2023年はNyege Nyege Tapesからリリースして一躍注目を集めたDJ Kなんかをはじめとしてアンダーグラウンドなファンキのサウンドに熱い視線が注がれていた感があるが、メインストリームで堂々たるポップ・ミュージックとして鳴り響くファンキも好きです。

Skrillex, Fred again.. & Flowdan – Rumble

本当は年間ベストといったらコーチェラでのPangbourne House Mafia(Skrillex, Fred again.., Four Tet)のDJセットだろと思うんですが、まあそれはそれとして、年始にリリースされたこのシングルは本当によかった。その後のアルバム2枚もふくめて、Skrillexの功績について考えることの多い1年でした。シンプルで削ぎ落とされた構成ながら、ひとつひとつのサウンドの細かいレイヤーがつくりだすテクスチャ―の変化が緊張感ある響きをつくりだす職人技は聴けば聴くほどビビる。ものすごくワイルドな印象なのに、選ばれているサウンドそれぞれはかなり繊細かつストレンジで、だまし絵みたいだなと思う。

Courtesy – Something feat. sophie joe & August Rosenbaum

デンマーク出身のアーティスト、Courtesyがリリースしたアルバム『fra eufori』は90s~00sのダンス・ポップをドラムレスなエレクトロニック・ミュージックに翻案するカヴァーアルバムで、ダンス・ポップっていうかEnyaも2曲とか入ってて選曲が納得感とおもしろどっちもあって、かつCourtesyのアナログシンセのサウンドを多用したコンポジションがもともと好きだったこともありよく聴いていた。トランスがリバイバルしていたり、あるいはY2Kなダンス・ポップも再興していたり(Planet of the Bassってありましたねぇ…… あれなんだったんだ)する時代の流れを感じつつ、そこからちょっとずらしたアプローチが絶妙。

NiziU – HEARTRIS

NiziUの韓国デビューシングルはRealSoundで記事も書いたんだけどすごく塩梅がよくて、韓国語だしちょっと懐かし目のK-POPっぽい感じ(初期TWICEとか……)かしらと思うと、ちょっとコード進行とかアレンジにJ-POPっぽさも残っていて、Kポっぽい風合いのなかにアニメ調のカットが入ってくるMVもあわせて派手さはないが結構凝ったことをしている秀作。しかし秀作と言ってすますには、良すぎる! なんだかんだめっちゃ聴いてしまった。

伊藤美来 – 点と線

あほほど聴いたという意味では声優アーティスト・伊藤美来のシングル「点と線」も秋から冬にかけて延々とヘヴィロテだった。三拍子と四拍子のクロスするポリリズムを下敷きにした壮大でシネマティックなアレンジがどツボ。アニメ「星屑テレパス」のOPで、EDはサンドリオンが歌唱してやぎぬまかな、パソコン音楽クラブ、phritzが制作というのもなんかすごかった。アニメはTVerとFODでしか配信していなくておいてかれてしまいましたが……。

マカロニえんぴつ – 悲しみはバスに乗って

サラリーマンの悲哀を歌うという点である種ユニコーンイズムを継承するようでいて、ひょうひょうとしたユーモアのかわりに徹底的にウェットで痛みにあふれた言葉を容赦なく並べたこの曲はちょっと衝撃でもあった。「まだまだまだぼくは青二才、赤ん坊は一歳/涙で滲むは給料明細」というアナクロで陳腐な「世知辛さ」から、「あ、そういえば」の一言を蝶番にして「今日はあいつの命日だ/なんで死んだんだっけ/どうして死ななきゃいけなかったんだろう」という深い「悲しみ」にためらいなく突っ込んでいくこのドラマが、詞全体に漂うどうしようもなくコンサバな空気感(「ありきたりな幸せ」)をかき乱していて、そのバランス感覚に戦慄する。

MVは正直いってあんま好きではない

Batu – Through The Glass

ブリストルのプロデューサー、Batuは今年2枚のEPを出している(はず)で、どちらも内容が素晴らしかったのだけれど、5月の「For Spirits」のラストチューンを。サンプルのシンプルなループを軸にドローンや細やかなリフで常に動きをつくりだし、後半からあらわれるベースラインにダンスフロアの残影をしのばせながらも、カタルシスに達してしまうことは避ける。それでも高まり続ける緊張感がふわっと緩和されるさりげないラストはさすが。4分弱の見事なコンポジション。

パソコン音楽クラブ – Day After Day feat. 高橋芽以

アルバム『FINE LINE』を締めくくる1曲としてこんなに完璧な曲もないだろうと思える1曲。前作から一転ポップでダンサブルにハジケた印象の強いアルバムだけれど、スキットを挟んだラスト3曲の展開は、実は『See-Voice』と本質的には通底する物語だったのかもしれないと気づきを得ながら日常に戻っていくようで見事。Overmonoの面影も感じるような端正だがアップリフティングなダンスビートに、抑制的ながらエモーショナルなメロディと言葉が噛み合った完璧さもすごければ、高橋芽以(LAUSBUB)の歌声も光っていて、2023年折に触れて思い出した1曲。

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[Soundmain Archive] beipanaインタビュー ローファイ・ビーツ×スティールギターというスタイルで拓いた理想的な音楽との距離感(2022.03.25)

初出:2022.03.25 Soundmain blogにて。
可能な限りリンクや埋め込みは保持していますが、オリジナルの記事に挿入されていた画像は割愛しています。

DJとして、ビートメイカーとして、そしてスティールギター奏者として、2000年代後半から長きにわたって活動を続けてきたbeipana。東京のクラブシーンやインディシーンにコミットしつつ、マイペースに自らの音楽を模索してきたことはもちろん、2010年代の後半に爆発的に普及したジャンル、「ローファイ・ヒップホップ」の定義や成立などを日本語圏に紹介した立役者として記憶する人も少なくないかもしれない。

そんなbeipanaが2022年1月にアルバム『Soothe Your Soul』をリリースした。本作は、近年InstagramなどのSNSで発表してきた演奏動画をもとにしたもの。スティール・ギターで奏でられるハワイアン・ミュージックとローファイ・ヒップホップのビートが結びついた、シンプルかつユニークな音楽性が耳を捉える一作だ。今回、『Soothe Your Soul』をきっかけに、このスタイルにたどり着いた経緯や、演奏動画のシェアで得られた経験についてインタビューすることができた。話を聞いてみると、何気なく、またユーモラスにも思えるアイデアは、長年にわたるさまざまな関心が、幸運にもひとつのかたちにまとまった結果であることがわかった。

ハワイアン+ローファイ・ヒップホップ、そのスタイルの背景

まず、簡単に自己紹介も兼ねつつ、音楽遍歴についてお聞かせください。

10代の頃は、日本でいうとLITTLE TEMPOとかNatural Calamity、Silent Poetsのような、トリップホップやダウンテンポと括られる音楽に惹かれていました。そうしたジャンルでは、よれよれのギターやスティールギターが使われていることが多いんです。それがここ10年の自分の音楽のスタイルに反映されています。

DTMをはじめたのは2007年ぐらいです。もともとDJをやっていたんですけど、その延長でマッシュアップなどを作り始め、次第にオリジナルのトラックを作るようになりました。ただ、DJの延長線上でダンス・ミュージックを作ってはいたものの、そもそも好きだったのはダウンテンポだな、と思って。2011年くらいにスティール・ギターをワークショップで習い始めて、そこからどんどん自分が好きだったものを作るようになっていったという感じですね。

今回リリースされた『Soothe Your Soul』は、ローファイ・ヒップホップ的なビートにスティール・ギターの演奏、というシンプルかつユニークなスタイルです。このスタイルに挑戦した動機は何だったのでしょうか。

「新型コロナ禍になった」というのが直接的なきっかけです。2020年の夏ぐらいに「しばらく人前でライブやDJをすることがなくなるな」と感じて、YouTubeで定期的に何かをアップしていこう、と決めたんです。やりはじめた当初はLUNA SEAのカバーとか……。

そうでしたね!

あとはトミー・ゲレロとか。好きな曲をスティール・ギターでチルアウト的にカバーしていました。ただ、メロディの耳コピとバッキングのコードの解析が大変で、伴奏を作るのも手間がかかる。なんとかならないかなと考えたときに、先ほどお話しした2011年のワークショップで40曲ぐらいのハワイアンの楽譜をもらったことを思い出したんです。これならメロディもコードも全部書いてある。次はこれをやろう、という感じで始めました。ただ、ハワイアンをスティール・ギターでコピーするのは――そもそもスティール・ギターはハワイ発祥の楽器なので――何のひねりもないことに気づいて(笑)。そこで現代的な解釈として、ローファイなビートと合わせてみたんです。もともと考えていたというよりは、冗談半分というか。「ローファイハワイアン、なんちゃって」という感じでやったら、結構いいリアクションがあった。じゃあ、これも楽譜のストックがなくなるまでやろうかなと思って、今に至ります。

制作環境の変化がもたらした『Soothe Your Soul』

ローファイなビートと合わせよう、というアイデア自体はすぐに思いついたんでしょうか。

そうですね。トリップホップやダウンテンポの影響もあって、そういうビートを作りたいという欲求は元々あったんですよ。2012年に、ワーキングホリデーを使ってオーストラリアに行ったんです。何か楽しい遊び場はないかな、と探しているうちに、シドニーのTAKUというビートメイカーや、Hiatus Kaiyote周辺のビートメイカーの存在を知って。ものすごく短いスパンで、それこそ毎日のようにサウンドクラウドに音源をアップロードしていて。それを見て、そうやって工芸的に音楽に向き合うのもいいな、と。その後も、ローファイのビートメイカーとして知られているwun twoを2014年に知ったり、2015年にはTajima Halさんのライブセットを見てSP-404SXを買ったり。

以前、ブログでローファイ・ヒップホップの成立の経緯についてまとめたことがありましたが、後にローファイ・ヒップホップとして顕在化していった流れを、それ以前からなんとなく横目でちらちら見ていたということも背景にあったんです。ブログにまとめるために最初から調べたのではなくて、「(それまでも存在していたシーンが)いまどうなっているのか」をまとめた結果、ローファイ・ヒップホップというジャンルの話になったというか。

ただ、関心はある一方で自分の表現にはなかなか落とし込めなくて……当時はSoundCloudにDJミックスをアップするようなアウトプットしかできなかった。それが、いまならできるんじゃないか、と思って始めました。

あと、PreSonus Studio OneにDAWを乗り換えたのもきっかけのひとつです。それまではWindows XPのマシンでACID(※)を使っていて……。

※1998年にSonic Foundryが開発したループシーケンサー。ループ素材の切り貼りで楽曲制作するソフトウェアの嚆矢だった。Sonyへの売却を経て現在はMAGIX社が販売している。

ACIDを、しかもXPで!?

はい(笑)。2019年に配信のみで出した『Windy Waves』というアルバムがあるんですけど、あれもACIDですね。セキュリティ上危ないので、マシン自体をネットから完全に遮断して使っていたという(笑)。使っていたバージョンでは、サイドチェイン(※)が使えなかったんですよ。DAWを変えたことで、スティール・ギターをキックでダッキングさせるみたいなことができるようになった。それも頭にあって、「もうビートを入れれば自分のこれまでの欲求を満たせる状況も整ってるし、やろう!」みたいに。

※外部からの入力に合わせてエフェクトのかかり具合を変える仕組み。コンプレッサーとあわせて用いられることが多く、「キックが鳴ったときだけ他のパートの音量を下げる」といった効果(=ダッキング)が作りだせる。

『Windy Waves』にも、ローファイに近いビートが入っていますよね。

はい。ただ、それをローファイに寄せられなかった理由があって。あのビートは実際に作ったのが2017年で、サイドチェインがかけられなかった。あと、2017年当時はサンプルパックの市場がローファイの需要に全然追いついていなかったんです。LAビート、ソウルフルヒップホップ、トリップホップといったものしかなかった。だからサウンドに乖離ができちゃって。もうちょっと弱々しい感じがいいんだけどな、と思いながらサンプルを選んでいました。

https://open.spotify.com/album/2gfkZbOoAtZwEgiW697nN6

「ローファイらしさ」を作りだすサウンドの決め手

現在、ビートはどのように組んでいますか? 打ち込むのか、ループの編集なのか。

サンプルパックのループのリズム配置を下敷きにして、打ち込みも併用して音色を変えていきます。リズムの形はそのままで、キックやスネア、ハイハットを別のサンプルパックから選んで組み直します。特に強いこだわりはないんですけど、現代的なローファイの文脈に合わせつつも意識的に避けているのが、J Dilla的なモタりです。トリップホップ・キッズだったので、そういうモタりの感覚が自分のなかにないんですよね。むしろ、スクウェアで淡々とした感じを意識しています。

スティール・ギターの録音や音作りはどのようにされていますか。

Behringerのプリアンプ付きインターフェイスに、モノラルでダイレクトに差して録音しています。エフェクターなどは介さずに素のままです。最近は、トーンを絞って高域が出過ぎないよう意識して録音しています。その後、Studio One側でプラグインを用いて音作りしていきます。使うものは決まっていて、全部Studio One純正のものです。アンプシミュレーター、コンプレッサー、リバーブ、EQ、ダイナミックEQ、ビットクラッシャー……中でも、ローファイ的な質感の要になるのが、ビットクラッシャーとコンプレッサーに用いるサイドチェインです。サイドチェインはスティール・ギターだけではなく、ウワモノ全体にかけていますね。そして、マスタリングはiZotope Ozone 9です。好みの鳴り方をしているローファイのビートをリファレンストラックにして使っています。

なるほど。ローファイらしさを出すのはビットクラッシュの質感と、サイドチェインなんですね。

はい。2014年にローファイ系ビートメイカーのJinsangがリリースした「Hawaii」という曲があって。Santo & Johnnyというスティール・ギターの名手の曲をサンプリングしているんですが、キックドラムの音をトリガーにハワイアンのサンプルをダッキングしているんです。2017年に自分が初めてこの曲を聴いたとき、「このやり方ならいけるな」と思ったのが、自分が考えるスティール・ギター+ローファイの原点です。感覚としては、ウワモノは古いレコードのようにつくって、それをリミックスしている感じに仕上げるというか。

あと、僕が持っているスティール・ギターは膝に乗せるタイプのラップスティール・ギターと呼ばれるものなんですが、他にペダルスティール・ギターというタイプもあって。こちらはラップスティールよりも弦が多くて、さらにペダルでボリュームをコントロールできる。音のアタックをペダルの操作で削ることもできるんです。僕はどちらかというとそちらの音のほうがシンセのパッドみたいで好きで。ダニエル・ラノワとか、アンビエントの人たちもペダルスティール・ギターを使っているんですが、幽玄な感じになっていますね。

その「アタックを削る」というアプローチを、キックをトリガーにしたダッキングでやるスティール・ギターのプレイヤーはいないだろうなと思って。Instagramに演奏動画を上げているプレイヤーを見ていても、そんなことをやっている人はいないんですよね。ビートメイカーの人は「こんなにバッキバキにスティール・ギターをダッキングしているのはヤバいね」みたいな感じで、そこに一番反応してくれますね。

このスタイルに取り組んでみて、スティール・ギターの弾き方が変わったということはありますか。

スティール・ギターって普通ピックを指に嵌めて演奏するんですが、それを嵌めずに指弾きするようになりました。音色にローファイ感が出る、というのもあるんですけど、それは理由の3割くらい。残りの7割くらいは、それだと他の機器を並行して触るのに不便だからなんですよ。

なるほど!

パソコンを操作するのも不便ですし、演奏動画の撮影でも不便。オーディオインターフェイスに入力して、録音して、だめだったら弾き直す。そのための手間が、ピックがあることで何倍にもなるんです。スマホをタップしてスワイプするのにも向かないですし。最近はプレイヤー意識に目覚めてきたので、また嵌めるようにしていますけどね。

活動を後押しする、SNSを通じた新しいつながり

Instagramに演奏動画をアップロードしてみて気づいたことや、ご自身の中で変化したことはありますか。

突然コミュニティに飛び込んでも、面白いと思ったら見てくれて、反応してくれたということがうれしかったですね。最初にアップロードした動画に長いコメントをくれたのは、darumaというSpotifyの公式プレイリストにもセレクトされているようなビートメイカーでした。ハッシュタグを通じて見てくれたみたいで、「ハワイアンをサンプリングしたことはあるけど、スティール・ギターを実際に演奏しているのはすごいね」と。そういうコメントやリアクションが短期的な動機づけになって、結果として1年半くらい続けられています。SNSには依存しすぎてしまう悪い側面もありますけど、自分の場合は報酬系がうまく働いてくれていると感じます。

SNSを通じたリアクションがモチベーションにつながっているんですね。

そうですね。あと、長く続けようと思わせてくれたもうひとりに、アメリカ西海岸でインディーバンドのギタリストをしているTommy de Brourbonという人がいます。彼はペダルスティールも演奏するので、スティール・ギター繋がりでフォローしてくれたのかなと思うんですけど、アカウントをよくみたらTikTokのリンクもあって。見てみたら「ラップの曲にもしギターソロがあったら」みたいな動画で100万回以上再生されていたんです。それで、DMでそのことについて話したら「インターネットは何が起こるかわからないから、絶対にやり続けたほうがいいよ」と言ってくれて。確かにそうかもな、と。

@tdebourbon Reply to @joelsimpsonn my most requested by FAR 🎸 drop more songs in the comments! #fypシ #guitarist #guitarsolo #guitartok #guitarcover #liluzivert ♬ original sound – Tommy de Bourbon

そうやって続けていると、クリエイター以外の人からも反応があって。有名なところだと『クレイジー・リッチ!』なんかに出ている俳優のAwkwafinaがいいねしてくれたり。「そこまで届くのか!」と。

Instagram以外のプラットフォームではいかがですか。

YouTubeは視聴専門の人が多い分、すごく長文で感想をくれるんです。Instagramでリアクションをくれるのは全員クリエイターという感じなので、「今回の、いいね!」みたいなライトなやり取りなんですけど、YouTubeだと、「わたしはこういう者で、こういう状況で聴いているんだけど、あなたの曲はこうだと思います」みたいなコメントがいっぱい届く。Instagramとは違った嬉しさがありますね。実は『Soothe Your Soul』というアルバム・タイトルをはじめ、このアルバムに収録した曲のタイトルはほぼYouTubeでもらったコメントの引用なんです。ハワイアンルーツの人で、おばあちゃんにもお母さんにも一緒に聞かせてシェアしている、というコメントをもらったり、ハワイ在住の人や、ネイティヴハワイアンの人からも反応があって。ネットを通じて、新しいコミュニティを作れている感じがありますね。

演奏動画はShorts形式でYouTubeに投稿している

beipanaさんは現在のスタイルに行き着かれるまでの活動歴も長いですが、今日まで音楽を続けてこられた理由って何だったと、ご自身では思いますか。

本当に、縁に恵まれていたように思いますね。活動自体は長いものの、多作なわけではないので。ようやくここ数年で、「毎週何かを作る」ということができる状況になったという実感があります。あとは、音楽はコミュニケーションでもあって、それがなくなれば失うつながりもありますから、だから続けているんだと思います。インターネットの存在も大きいですね。古くはmixiから、ソーシャルメディアを通じて生まれたつながりで活動が始まったので。音楽を通じてインターネットの文化の変遷みたいなものを見続けているところは一貫している気がします。

今後の活動のプランがあれば教えて下さい。

もうちょっと多作になりたいです。トミー・ゲレロみたいになりたいんですよ。DTMを駆使したプロデューサーの作品というよりも、ルーズな雰囲気のギタリストらしい宅録を、自分のペースでずっと作り続けたい。今回の作品で、その入り口をようやく作ることができました。あとは、演奏動画も続けられるだけ続けていきたいですね。

取材・文:imdkm

beipana プロフィール

ラップスティール・ギタープレイヤー。自ら演奏するレトロなスティール・ギターのサウンドとサンプリングやエレクトロニクスをミックスした独自のリゾート・ミュージックを奏でる。近年はSNSで『スティール・ギターの演奏+ローファイ・ビーツ』による、ハワイアンのカバー演奏動画を披露している。演奏動画のコンセプトをもとにした『Soothe Your Soul』を2022年にリリース。 https://linktr.ee/beipana

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2023年総括

今年最後の更新です。

トピック

雑多なトピックをまず。

激ヤセとリバウンド

2022年12月末から2023年1月、爆裂な鬱エピソードに突入し、飲まず食わずで3日過ごすなどの日々がざらに続いたため、一気に10kgほど落ちる。その後、通院を再開してなんとか体調を持ち直したものの、7月~8月にまた若干悪化してさらに10kgほど落ちる。都合、20kgは体重が落ちたことになる。一番体重が少なかったのは9月のゲンロンカフェでのトークイベント時で、久々に会った知人から「……痩せました?」「なんか縮んでない?」などといかにもたずねづらそうに声をかけられるなどしていた。

その後、10月以降順調にリバウンドし、10kgほど体重が戻った。だから安心というわけでもなく、体重の急激な増減は増えても減っても身体に負担が大きい! やめてくれ! と思いつつなんとか健康に体重を落としていこうと決意。

ZINEを出す

詳しくはライターがゼロからZINEをつくってみた話に書きましたが、「音楽とテクノロジーをいかに語るか?」というZINEをつくって文フリ東京で頒布しました。これきっかけでいろいろ仕事が増えたりして、まあ出してよかったな~という感じです。初版はもう捌けてしまっていまは電子版だけ売ってます。

音楽とテクノロジーをいかに語るか?(電子版) – 編集室B(imdkm) – BOOTH

できれば2024年中に増補版をつくって売りたいんですが、じゃあまた文フリ行くのか? とか考えるとむずかしい。いろいろ考え中です。

ブログを動かしだす

11月ごろからブログを週三回+α更新するようにしていて、なんだかんだで年内は続きそう。サーヴィス終了と共に閉鎖となったSoundmain Blogの記事のアーカイヴや、隔週日曜のプレイリスト記事も続けていきます。

主に書いているのは書評やライヴ、展覧会のレポートだけれど、今後はもっといろいろ書いていけたらいいなと思います。

髪をのばす

長いこと(もう10年以上!)坊主を続けてきましたが、なんとなく髪を伸ばしだしました。なんか変な感じですが、寒くなくて楽しいです。

記憶がない

しかし記憶がない。なんの記憶もない。とりあえずいま鬱は寛解しているものの綱渡りでやってきた時期が長すぎる。大丈夫だろうか。ブログをコンスタントにつけることで来年は記憶をたしかに保っていきたい。

2023年仕事ピックアップ

今年の仕事で印象に残ったもの

冨田ラボ / 富田圭一 WORKS BEST 2 ~beautiful songs to remember~ライナーノーツ/全曲解説

冨田恵一さんの2010年代の活動をまとめたWORKS BEST 2に各曲解説を執筆。あまりやったことがないタイプの仕事で緊張したけれど、結果的には手応えのあるブツになりました。CD自体、シンプルなコンピレーションながら、大きな転換期を迎えた冨田さんの姿がありありと浮かび上がる面白い作品になっているので、おすすめです。っていうか、冨田さんに限らず、「ああ、2010年代ってこういう空気感あったよな」ってかなり振り返れたんすよね。一方には柳樂光隆さんがJazz the New Chapterが積極的に紹介してきたようなネオソウルも含めた新しいジャズの流れがあり、それと同時にメインストリームのポップスがサウンドの新たなスタンダードをどんどん打ち立て……という。「シミュレーショニズム」の冨田さんがアクチュアルなサウンドに傾倒していったうえで、ふたたび独自のアプローチを確立していく10年間。これは実はKIRINJIも似たような経路を辿っている感じがあって。すごく刺激的です。

ジュリアス・イーストマンというブラッククィアの作曲家。歴史に消えかけたその音楽、キャリアを紐解く | CINRA

ミニマリズム~ポストミニマリズムの重要な作曲家のひとりとして再評価の声が高まっているジュリアス・イーストマンの仕事を振り返る記事をCINRAにて執筆。たしかにイーストマンの作品はかなり好きで聴いていたものの、自分が書いていいのかな~と迷っていたんですが、背中を推されて書いてみたら、それなりに思い入れの強いテクストに仕上がりました。ジュリアス・イーストマンはいいぞ! とりあえずFemenineとStay On Itがおすすめです。

菊地成孔×tofubeats×荘子it 司会=imdkm 「2020年代に音楽はいかに応答するか」

これはもう、菊地さんとお仕事する日が来るとは……というのに尽きます。完全にミーハー心です。トークの内容も後半の衝撃的な展開ふくめ、なんかすごかったです。おれはタジタジになっていた。

EYESCREAM 2024年1月号 長谷川白紙インタビュー

ユリイカ長谷川白紙特集と迷ったんですが、こちらのインタビューが個人的にいろいろ面白いことをじっくり聞けて、面白かったなと。論考を書くのは基本孤独な作業なので……。

先日の本屋B&Bでのトークも楽しかったです。青本さんの「ある時期から長谷川白紙の言ってることのバトラー度が上がってる」という指摘にウケてしまい、実際それは2020年から2021年くらいらしいんですが、それがちゃんとEYESCREAMのインタビューで長谷川白紙がバトラーに本格的に触れた時期と符合してるっぽいんですよね。すげーなと思います。アーカイヴ見れますんでそちらもどうぞ。

【アーカイブ動画視聴】青本柚紀×imdkm×海野林太郎×和田信一郎(s.h.i)「長谷川白紙を語ろう!」『ユリイカ2023年12月号 特集=長谷川白紙』(青土社)刊行記念 | Peatix

来年の抱負

来年の抱負は、

  • 元気にやっていく
  • 「音テク」増補版の刊行
  • 地元のクラブに遊びに行く
  • 山響のコンサートに通う

です。ほかにも具体的にいろいろあるけどいまはまだ言えないことのが多いのでまたおいおい。

新年最初の更新は2023年ベストトラックにする予定。できなかったらごめーんね。ではまた。

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