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川上幸之介『パンクの系譜学』(書肆侃侃房、2024年)(Amazonアフィリンク)

倉敷芸術科学大学の准教授で「Punk! The Revolution of Everyday Life」展やゲリラ・ガールズ「Reinventing the “F” word: feminism!」展などをキュレーションしてきた川上幸之介の初の単著。書名が示す通り、「パンク」というカルチャーの系譜を音楽ジャンルにとどまらないさまざまな角度から辿っていく本になっている。

読みどころはさまざまあるけれども、個人的に興味深かったのは第3部の「パンクのアートにおける系譜」。ダダ、レトリスム、シチュアシオニスト、キング・モブの活動を取り上げ、パンクを20世紀ヨーロッパを中心とするアヴァンギャルドの系譜に明確に位置づけている。たとえばマルコム・マクラーレンがシチュアシオニストの影響を受けていて……みたいな話はよく耳にするけれど、単にトリヴィアルなエピソードにとどめず、芸術と交わる政治的前衛としての性格を歴史的に辿りながら描き出していくのがとてもおもしろい。

そもそも、レトリスムやシチュアシオニスト(およびその分派や同時代の政治的前衛)の活動をその歴史的経緯を追いつつ日本語で読める文献はさほど多くないんではなかろうか。特にレトリスム。アヴァンギャルドというとダダにはじまりシュルレアリスムがありシチュアシオニストがあり……みたいな感じで、レトリスムはシチュアシオニストとの関わりからその前史として言及されるくらいの印象がある。さらにキング・モブを始めとした前衛たちの活動について、その独自のコンテクストも含めながら論じている本って恥ずかしながら他に知らず、とても勉強になったし、面白かった。

第4部の「セックス・ピストルズ以降」では、さまざまなパンクの潮流がその思想的背景を丹念にあとづけつつ紹介されている。DIYカルチャーとしてのパンクがときに直接行動によって、ときにトリックスター的な撹乱によってシーンを広げていくさまが描かれていてこちらも面白い。

また、第5部では「アジアのパンクシーン」が取り上げられ、特にインドネシア、ミャンマー、日本のパンクシーンにそれぞれ一章ずつ割かれている。最終章の第21章「日本のパンクシーン」でフィーチャーされるのは、橋の下_世界_音楽祭。ライヴハウスやレコードショップ、あるいは音楽メディアを舞台に繰り広げられるような「パンクシーン」ではなく、政治・思想・音楽・アートが交差する場としての「パンク」を体現する音楽祭を取り上げるところに本書のユニークさがある。

非常に勉強になる……一方で、文章は若干読みづらく、アカデミックな専門書みたいな味気なさというわけでもなければ、一般書のこなれた文章という感じでもなく、少しつまづいてしまう。英語文献からの引用もあまりうまく訳せていないのではないか、という気がする。特に音楽関連の記述については、誤訳では……? と思う部分もある(日本語でいまいち意味がとれず、原文を探して読んでみたりした)1。誤字・脱字もそこそこあり、こればかりは出版物にはつきものなのだけれど、編集がもうちょっとリーダビリティを気にした介入をしてもよかったのでは……という気がする。

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