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Amazon→萩田光雄『ヒット曲の料理人 編曲家・萩田光雄の時代』リットーミュージック、2018年

歌謡曲の時代からJ-POPの時代にいたるまでヒット曲を手掛けてきた編曲家、萩田光雄の自伝+インタビュー&資料等々をまとめた一冊。Kindle Unlimitedにも入っている。名だたるヒット曲の裏側を知ることができるのはもちろん、歌謡曲からJ-POPに至る日本のポップ・ミュージックの姿がどのように形成されてきたかを垣間見ることができる。

おもしろいところはいろいろあるのだけれど、個人的な関心に即していえば、ヤマハ音楽振興会の重要性が萩田光雄や周辺の人びとのキャリア形成のプロセスから見えてくるところだ。日本のポップ・ミュージックをかたちづくった編曲家の多くはヤマハ音楽振興会で学んだり、あるいは仕事をもらったりして腕を磨いてきた。萩田はもちろん、船山基紀や林哲司もヤマハ音楽振興会出身で、ポップスのアレンジのなんたるかはヤマハの仕事で覚えたといっていい。

さまざまなアーティストを輩出してきたポプコン(ヤマハポピュラーソングコンテスト)だが、その開催にあたっては全国のアマチュアから送られてきた自作曲(しばしば歌詞と歌メロだけ、コードが付されていることもある)を編曲する人材が必要で、萩田光雄はそれに携わることでアレンジを実地で覚えていった。

 この審査用の音源作りでは、私は多くのことを学ばせてもらった。誰かから「こうしてほしい」と言われることもないし、商品ではないので売れるかどうかで評価もされない。気ままに、と言っては申し訳ないが、100%自由にアレンジできたのだ。曲の長さは2コーラスとか決められていたが、テンポは自分の解釈である。イントロももちろん、自分で考えてつけた。今もそうだが、アレンジはキー(調性)とサイズ(長さ)が決まればできるのだ。体当たりではあったが、実践の訓練になったのは間違いないだろう。

 ヤマハには全国に支部があるので、地区ごとに応募がある。恵比寿は財団法人ヤマハ音楽振興会の総本山で、東京の支店は銀座や池袋などにあった。全国の支店ごとに審査があり、支店のグランプリや優秀作品が本選に来るシステムで、私はヤマハ音楽振興会の本部に送られてくる作品を扱っていた。 他にもその仕事をやっている人はいた。あの当時、川村栄二君と一緒だったし、船山基紀君もいたし、林哲司君も出入りしていた。信田かずお君もいたはずだ。あの頃、ポピュラー音楽の専門学校はヤマハだけだったし、私も業界へのとっかかりを見つけるために、ヤマハにたどり着いたんだと思う。

pp.24-25

ほかにも、ジーン・ペイジスタイルのストリングス・アレンジを講師の林雅彦から学んだことが大きな糧になった……等々、こうした証言をまとめていくと日本の(ある時期までの)ポップ・ミュージックのかたちがどう形成されてきたかがよくわかるんだろうな~と思った。

ヤマハ音楽振興会はどうも気になる存在で、特にポプコンまわりのことは調べたいなーと思うのだけれど意外と手頃な資料が見つからない(単行本の一冊でも出てんじゃないかと思ったのだが)。ヤマハの出している「音遊人」という会報でポプコン特集があったらしいとか、ムックが昔でていた(ちなみに今マケプレだとすごいプレミア価格)とか、そのくらい? まあ、いろんな本で取り上げられているから、それらの記述を一箇所にまとめるだけでも面白そうだと思うけど。

ところで、ヤマハの公式サイトでは、ポプコンがこのように紹介されている。いわく、

「音楽の歓びは自分で創り、歌い、そして楽しむことにある」という歌ごころ運動の一環として開催された、アマチュアを対象にしたオリジナル曲発表の祭典です。

ポピュラーソングコンテスト - ヤマハ音楽振興会

ポプコンがはじまったのは1969年、うたごえ運動が盛んだった頃だ。そんなタイミングで「歌ごころ運動」と銘打って、「人々の歌」ではなく「アマチュア=個人による創作」を打ち出すことには、どうも政治的(もしくは脱政治的)なコノテーションを読み込みたくなる。

同時に、1960年代は歌謡曲の世界において専属制度が崩壊しフリーの作り手がつぎつぎ登場した時代であり、そこから1970年代に入るとテレビ局と芸能プロダクションが組んでスターを生み出していく体制が確立されていく。フォークやグループサウンズ、さらにはニューミュージックにつながる動向ももちろん並走している。そこに、レコード会社や芸能プロダクションやマスメディアとは違う、楽器メーカーであるヤマハがどのようにコミットしていったんだろう。というのに割と関心がある。ヤマハのピアノ製造業と音楽教室の関係みたいなのはすでに先行研究が結構あるのだが。ちょっとずつ調べていくけど、なんかいい文献あったら教えてください。

#Book-Review

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