初出:2021.12.16 Soundmain blogにて。
可能な限りリンクや埋め込みは保持していますが、オリジナルの記事に挿入されていた画像は割愛しています。
シンガーソングライターであり、自らトラックを作って活動するプロデューサーでもあるuami。豊かな表現力を持つ声と、繊細でときにトリッキーなビートが注目を集める新鋭だ。メロディラインにポップな顔を覗かせる一方で、実験的でエクストリームなサウンドも飛び出すその奔放な作風は、約束事から解放された清々しさと共に、どこか謎めいた雰囲気を醸してさえいる。多作家としても知られ、2019年に初めて作品集を発表した際には、アルバム・EP・シングルあわせて70曲を同時に配信。その後もコンスタントにソロ作のリリースやコラボレーションを重ね、2021年だけでも3作のアルバム・EPをリリース。そのユニークな作風とバイタリティあふれる活動の背景を聞いた。
自分なりの歌声を探して
uamiさんは多作な印象があります。今年に限っても、アルバム『火と井』、『昼に睡る人』、EP『zoh』と3つの作品集を出していて、シングルも出している。ものすごいバイタリティだと思います。最初から創作意欲がどんどん湧いてきていたんでしょうか。
本当に最初の最初はカバー用のトラック作りから始めたんです。で、ちょこちょこ作曲してみるかみたいな感じで。当時は「AメロがあってBメロがあってサビがなきゃだめ」というのが念頭にあったので、苦戦していました。2018年くらいからいろんな音楽に触れるようになって、自分の作品の幅も広がったというか、「Aメロ・Bメロ・サビ」みたいに固定された決まりってないんだなというのがわかりだした。それから、「こういうのも作りたい、ああいうのも作りたい」と作っていくようになりました。
最初はカバー曲のトラック作りだったということは、歌うためにトラックを作り始めたということですか。
そうです。自分はピアノがばりばり弾けるわけじゃないから弾き語りもできないし、どうしようかなと思っていたんです。YouTubeとかにあるような怪しいカラオケ音源を使うよりも、自分で作ったほうがいいんじゃないかみたいな気持ちがあって(笑)。
もともと、歌うことはお好きだったんですか。
好きだったんですけど、小さい頃はカラオケが苦手で。でも、中学校から高校くらいからひとりカラオケに行きだして。あと、吹奏楽部に入っていたので、トレーニングで歌うこともあったりして、歌に興味が出て。他にも、通っていたピアノ教室でちょっとだけ、ソルフェージュ(楽譜を読み、解釈するための基礎訓練のことで、譜面を「ドレミ」に読み替えて歌うソルミゼーションなどを含む)というのかな、歌ったりもしていました。
演奏や歌う以外に、音楽にはどう触れていましたか。好きなアーティスト、とか。
自分で初めてCDを買ったのは宇多田ヒカルとか椎名林檎でした。でも、中学校では本当に部活が忙しかったので、そういうJ-POPに疎くなっちゃったんです。中学3年生で部活から解放された頃、マイケル・ジャクソンが亡くなって。それがきっかけで、家にたまたまあった『BAD』(1987年)を聞いてみたりして、そこからめちゃくちゃマイケル・ジャクソンを聴き込みました。次はK-POPにハマって。BIGBANGとか東方神起とか、あのへんがすごかった時代です。ボーカロイドにハマっていたときもあります。あと、大学で一瞬軽音楽部に入っていたんです。歌で参加してくれないかと言われて、一度ライブに出てやめちゃったんですけど。そのときは邦楽のロック、KANA-BOONとかキュウソネコカミとかを聴いていました。
uamiさんの曲で面白いなと思うのが声の使い方で。歌い方のバリエーションが幅広い。ラップするときもあるし、ぐっと唸るような、それこそ椎名林檎みたいな歌い方のときもあるし、ウィスパーになったり、かと思えば過激なデスボイスになったり。そういう声の探求をこれまでにされてきたのかなと。
高校から大学の最初くらいのときは、めっちゃ声を張り上げる感じの歌い方をしていました。でも、あるとき、カラオケに行ってきちんと最初から最後まで歌う以外にも、家でちょっと「ふふふふ」みたいな感じで歌うときの歌い方でもいい、歌い方はひとつじゃなくてもいいんじゃないかなって気づいて。いろんな声を試した結果、息の多く入ったウィスパー寄りの歌い方を最初に見つけました。自分が歌いやすいし、後で録音を聞き返したときにも聞きやすい。それがこの3~4年ですね。で、そこから後に解体ザダン壊というユニットで一緒に活動することになるhonninmanとかに衝撃を受けて。honninmanからノイズとかシャウト系の音楽をいろいろと教わって、自分もやってみたいなと思ってさらに幅が広がりました。
uamiさんの作品には張った声の使い方ってないなと思っていたんですよね。だから、いま「もともと張った歌い方をずっとしていた」っていうのが面白くて。
反省をいかしてじゃないけど(笑)。自分は張り上げた声でうまく聞かせるよりも、他の表現の仕方のほうがあってるのかなというのがわかってきたので。
iPhone一台で完結する楽曲制作、その工夫
具体的な制作のプロセスも伺っていきたいと思います。まず、いまの制作環境を教えて下さい。
iPhoneのGarageBandで、特にそれ以外のアプリもなんにもないんですけど……。iPhoneのGarageBandの中で、弾いて、打ち込んで、あとで編集画面でちょっと調整したりとか。
声の録音は、ほんとに、イヤホンをつなげて、ここに入れています(iPhoneを持ち上げて、内蔵マイクに向かって声を出すジェスチャー)。
マジすか。
はい。
マジすか……。
はい(笑)。
マイクを外付けするインターフェイスもありますけど、そういうものは使わずに……。
人から「こういうのあるよ」って教えてもらうこともあるんですけど、「ああ、そうなんや、あるんや~」みたいな。アプリとかも、結局は使ってないですね……(笑)。
使っていて、ソフトウェアの限界って感じませんか? これができたらいいのに、みたいな。
ありますね。決定的なのが、曲の途中でテンポを変えられないんです。どうしてもテンポを変えたいときには、一回プロジェクトファイルを書き出して、書き出したファイルを新しいプロジェクトに無理やり差し込んでいます。具体的な曲名でいうと、2020年のEP『キンカジュー』の中に「ルシー」という曲があって。
中盤から曲調が変わって、テンポも変わる。それはプロジェクトファイルがもともと2個あって、1回冒頭の部分を書き出してから、別のプロジェクトに差し込んでます。「餞」も、もともとプロジェクトが2個にわかれていて。若干テンポが変わるんですよね。
声が伝える「肉感」
uamiさんの作品では、声を録音するだけではなくて、重ねたりエフェクトをかけたりすることも多いと思います。かなり細かくフレーズを割ったり、単純にハモるだけじゃなくて、声をいろんなところにちりばめたり、繊細なアレンジをしていますよね。その多重録音のプロセスについてもお伺いしたいなと思っていて。
だいたいトラックができて、1本主軸になるメインボーカルを録ったら、メインボーカルのハモリ、上・下を録っていきます。そのときに「こういうの入れたらいいかな」って思いついたらその場で入れちゃいます。ハモリが録り終わったあとも、「ここにコーラスを入れたほうがいいな」っていうところが見つかったら、付け足す。この間「マーキース」ってシングルを出したんですけど、あれは歌いながらメインのメロディを決めていった曲なんです。そのとき、ボツになったメロディラインも、後ろのコーラスとして残しておいたり、使わなかったテイクもコーラスに使ったりしています。
他にも、メインの歌があってコーラスがあるというだけじゃなくて、声そのもので遊ぶというか、声自体を素材にするようなアプローチもありますよね。特に、『火と井』では歌というより声みたいな存在感の音がたくさん出てくる。そういった声のアプローチの違いはどのように使い分けていますか。
『火と井』に関しては、もともと声だけでトラックとかリズム隊とかをやってみたくて。そう思っていたときにBjörkの『Medulla』(2004年)に出会って、「これこれ!」って。声だけで1曲構成することに憧れがあったんです。やっぱり声だけだと肉感の出方がぜんぜん違うので。でも、「こういうイメージにしたいから」というよりは、「ここに声を重ねたほうが自分が気持いいな」みたいな感じでどんどん重ねていきます。感覚的な作業です。
サウンドの表現を豊かにする細かな手作業
uamiさんのトラックはすごく繊細で、「こんな音がGarageBandで出るんだ!」ってびっくりすることが多いです。一方、『昼に睡る人』では歪んだ音がすごく印象的でした。ギターや声を思いっきり歪ませたりして。今回、こうしたサウンドを多用した理由はありますか?
今回の『昼に睡る人』は、J-POPみたいな曲を作りたくて。でも、そのまんま歌うとちょっと照れるなぁ……とか(笑)。自分の趣味として、メジャーっぽいけどちょっとおかしいみたいなものが、聴いていてすごく気持ちいい。だから、自分の曲でもサビに邪魔なノイズを入れてみたり。聴く者を惑わせたい……というか、自分が惑いたいんですけど(笑)。
そういう加工も全部GarageBand内蔵のエフェクトなんですよね。『昼に睡る人』だと、「灰の在処」とかにあったと思うんですけど、ボーカルがぷつぷつととぎれとぎれになったりとか……。
あれは、ちょっと切って、間をあけて、切って、間をあけて、みたいな……。
マジすか!? ああ、そうなんだ!
あとは、何種類かあるマイク用のエフェクトをトラックごとに使い分けて、もとは1本のボーカルデータだったのを、ここを切ってこれはこっちのエフェクトをかける、ここは削除する、とか。めっちゃ細かくやっています。
編集でそういうエフェクトを作りだしたり、細かいエフェクトの使い分けを行っているんですね。一般的なDAWでは、オートメーションを使ってエフェクトのかかり具合を曲の中で調節できますけど、そういう風に「だんだんエフェクトがかかっていく」のではなくて、場面がきりかわるように音が変わることって、uamiさんの場合たしかに多い。
エフェクトを途中で変える機能があればそれに頼っていると思うんですけど、いまのところ見当たらなかったので、細かい作業をたくさんしています。ちゃんとしたなめらかさ、なだらかな変化にならないところは面白さでもあるかなと。ちょっとかくかくしているな、みたいな。
以前、honninmanさんとのユニット・解体ザダン壊のパフォーマンスで、honninmanさんが歌うのにあわせてuamiさんがGarageBandをその場で打ち込んでいるという動画を見たことがあって。すごい使い込み方をしていますよね。
自分が普段の曲作りで(そういう風に)使っているんです。楽譜がもともとあって、それにそって打ち込んでいるのとは違って、即興性が高いことを重ねてやっているという意識で作っています。
曲が完成してからの話になるんですが、プロジェクトを音声ファイルにして、BandcampやSoundCloud、あるいはサブスクにアップロードしますよね。そのとき、ミックスとかマスタリングはどうしていますか?
ミックスもGarageBandで行っています。WAVに書き出した時点で完成形のときと、一回書き出したWAVをさらに別のプロジェクトに読み込んで増幅させたり、リバーブとかをいろいろ調節するときと、自分でやるときはその2パターンです。『昼に睡る人』とかビクターからのリリースの場合は、あちらでマスタリングをしてくれていますけど、その際も元の感じをいかしてもらっています。バランスは自分でGaragebandでやっていたままです。周りで音楽をやっている人から、「ミックスとかマスタリングはしないの」って言われる時期もあって、自分も「そういうのしなきゃいけないのかな」って思ってたんですけど、自分が聴いて不自然に思わないのに、する必要は今の時点ではないのではと思って(笑)。
コラボレーションがもたらす変化と、カバーへの思い
uamiさんはコラボも数多くやっていらっしゃいますよね。解体ザダン壊(2019年~)もそうですし、没 a.k.a. NGS(Dos Monos)さんとの「踊る火炎 (ep)」(2020年)、君島大空さんとのユニットavissiniyon(『avissinyon』、2020年)、サ柄直生さんとのコラボ「まねごと」(2021年)もありました。こうした方々とコラボレーションして得るものというか、自分の作品にフィードバックされるものってありますか?
ありますね。没さんと作品を作る前は、他の人に送ってもらったトラックにメロディをつけることに苦手意識があったんです。自分でトラックを作ってそこにメロディや歌詞を入れたほうがやりやすいなって。「踊る火炎」では5曲か4曲くらい、没さんが作ったトラックに自分がメロディをつけました。うまくできるか不安だったんですけど、とりあえず流して歌ってみよう、みたいに勢いでやったところ、「あ、楽しいな」みたいな(笑)。コラボって楽しいんだとわかって。没さんのトラックが自分がいつも作る感じとは違ってサンプリング色が強かったので、自分もそういうものを作ってみたくなったり。
あと、サ柄さんの場合は、完成形が最初送っていただいたトラックとだいぶ違うんですよ。最初はすごくシンプルだったんです。でも、自分がメロディと歌詞をつけてボーカルデータを送って次に返ってきたのが、ああいう細かい砂みたいなノイズが散りばめられているもので、「すごい、かっこいい!」となって。「まねごと」以降は、自分も小さい砂のようなノイズを自分の声にくっつけたりしてみています。
もう一つ、uamiさんの活動で気になっているのが、カバーをよく発表されているじゃないですか。宇多田ヒカル「traveling」のようなみんなが知っているJ-POPの曲に限らず、1e1さん、~離さん、abelestさん、NTsKiさんなど、同じ時代を共有している人の曲をどんどんカバーしているのが印象的で。カバーしよう、と思う動機は何なんでしょう。
一番大きいのは「この曲好きだな、歌いたいな」ということで。「この有名な曲をやったら自分の曲も聴いてもらえる」みたいな、そういう感じでカバーはあんまりしてないというか、したくなくて。あと、自分がいいカバーにあんまり出会ってこなかったなっていう思いがあって。どうせやるんだったらこういうカバーをしたいなという、カバーにたいする反骨精神みたいなのもあって(笑)。
uami · [cover]宇多田ヒカル - traveling
これまで作ってきた曲で特に思い入れがある曲ってありますか?
最近のものだと「oocyst」。~離さんが立ち上げられたi75xsc3eというレーベル(https://i75xsc3e.hatenablog.com/)を知ったときに、「よくわからないけれどどこかにある空間」のイメージが浮かんで、それを意識して作った曲なんです。歌詞が日常生活の中でうまれてくるのではなくて、ある架空の空間を意識して作った曲は初めてだったなと思います。建物かどうかもわからない、漠然とした空間のイメージの曲。
「マーキース」は制作に1年くらいかかっていて。曲自体は去年にはほとんど出来上がっていたんですけど、最初に思い浮かんだメロディが既存の曲に似ているんじゃないかと思い始めて。実際に既存の似ている曲を知ってしまったこともあって、もともと作っていたメロディを変えようかと思っていたんです。そうしたら、ある日ボーカルデータがプロジェクトファイルからすべて消えていて。「ああ、これはもう録りなおせってことか」って。トラックに関しても、バンドチックな音なので苦戦しました。自然に聴かせるための微調整が大変で。他にも、たくさん、たくさん思い入れがありますね。
最後に、今後の抱負、やってみたいことをお聞かせください。
来年はラップのEPを出してみたいなと。あとは、『昼に睡る人』をリリースするにあたって、やっぱり視覚情報があったほうがとりついてもらいやすいのかなぁって思って、自分でティザーを撮影して編集してみたんです。そうしたら、ちょっと可能性が見えてきた。映像を今後もちゃんとフル尺で作ったりしてみたいなと思います。
あと、『zoh』というEPはいまのところデジタル配信オンリーなんですけど、CDじゃない形でフィジカルを出したいなと思って。CDも出すかもしれないですけど。面白い形態で出せたらなと思って計画を練っております。
めちゃくちゃ具体的で未来が楽しみになります。今回はuamiさんの口から制作について具体的にお聞きできてよかったです。ありがとうございました。
ありがとうございました。
取材・文:imdkm
uami プロフィール
uami(うあみ)
福岡県出身・在住。2017年から作曲開始。今のところ主にiPhoneを使用しトラックメイクやボーカル録音、ミックスまでを一台で完結させている。2019年には3タイトル全70曲を同時配信リリース(CONNECTUNE, SOPHORI FIELD COMPANY)。また、SoundCloud等においても随時楽曲を公開し、2021年には自身初となる全国流通CDアルバム『昼に睡る人』をリリース。CDデザイン等も手がける。君島大空、没a.k.aNGS(Dos Monos)、サ柄直生 との 共作や、honninmanとのユニット「解体ザダン壊」としての活動も行う。