imdkm

この記事はアフィリエイトリンクを含みます。

Amazon → Gregory Cahill, Kat Baumann, The Golden Voice: The Ballad of Cambodian Rock’s Lost Queen

Pitchforkの記事(The 10 Best Music Books of 2023 | Pitchfork)で紹介されていてちょっと興味があって調べたら、日本でもKindle版が買えて、Kindle Unlimitedでも読める。

カンボジアのシンガー、ロ・セレイソティアの生涯を描いたグラフィックノベルで、47曲におよぶサウンドトラックがあわせて公開されている。読んでるといいタイミングで「何曲目を再生/停止」みたいな指示がでるのでそれにあわせるかたち。カンボジア・バタンバンの農村から、その歌声に目を留められて首都プノンペンに招かれて、国営ラジオのシンガーとしてキャリアを重ねるが、冷戦下の東南アジアの不安定な政情に翻弄され、ついにはクメール・ルージュ体制下で命を落とす。

このグラフィックノベルで描かれる1960年代末から70年代後半にかけてのキャリアは目覚ましいもので、プライベートも激動している。嫉妬深い最初の夫、子供も生れた二番目の夫ともすれ違い、挙げ句権力者の介入で別れるはめに(当然、権力をかさに関係を強要される)。同時に、母親と娘の愛憎・葛藤から和解へ、という筋もある。とはいえ、いずれも脚色が強いようだ(そもそも記録が乏しいのだから仕方がない)。末尾にはフィクション/ファクトの対照表もついている(そしてそこにもサウンドトラックがついている)。

ロ・セレイソティアのキャリアと人生も激動なら、サウンドトラックから聴こえてくるサウンドも、演奏の面でも録音の面でも目覚ましく変化を遂げている。

カンボジアの音楽といえば、『カンボジアの失われたロックンロール』というドキュメンタリーが以前話題になっていた。これは日本では(正規には)いま見る手段がない。配信はリージョンブロックがあって見れない。見たいんだけどな(正規に)。その点で本書は英語ですがKindle Unlimited入ってるという方はサントラ流しつつ読んでみてはいかがか。

背景情報を調べようとしたら、意外とカンボジアの音楽に関する日本語のWikipedia項目が充実していることに気づいた。たとえば、ロ・セレイソティアの項目もある(出典の不足があるが……)し、カンボジアのロックをコンパイルしたコンピレーションについての項目は英語版からの翻訳であろう、その功罪までくわしく書いてある。

カンボジアン・ロックス - Wikipedia

しかしまあ、ロシアのウクライナ侵攻や、ハマスの攻撃に対する反撃という名目ではじまったイスラエルのガザ侵攻(そして虐殺)、そしてそれらにとどまらない世界各国での人道に反する犯罪的な行為を思うと、ここで描かれていることを冷戦下の悲劇としておくことはできないのだろうなと思う。陰鬱な気持ちになる。

#Book-Review

このページをシェアする: X | Threads | Bluesky