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近田春夫はこれまで自伝『調子悪くて当たり前 近田春夫自伝』(リトル・モア、2021年)や『筒美京平 大ヒットメーカーの秘密』(文春新書、2021年)などでライターの下井草秀とタッグを組んできたが今作『グループサウンズ』も同様。書き下ろしというよりは語りおろしで、下井草が聞き手となる近田のグループサウンズ論パートが主となり、『筒美京平』本よろしく当事者・関係者へのインタビューも収められる。

グループサウンズをカルト的な目線やリバイバル文脈を外してリアルタイム世代でハマった人間がじっくり語り直す、というコンセプト自体が功を奏しているのはもちろんのこと、ロックと歌謡(後にはヒップホップやトランスにも手を出すが)を横断してどちらにも軸足を置かない絶妙なスタンスの近田だからこそ、グループサウンズのアンビバレントな立ち位置がうまく描き出されているように思う。グループサウンズはいわば日本におけるロック黎明期のひとつの挫折であると同時に、その後の歌謡曲、さらにはJ-POPの礎ともなった面が強いと思うのだが、その両面をどちらにも相応の思い入れをこめて語られている。

トークのなかでたびたび飛び出す近田の持論(ビートルズの影響を過大に見積もりすぎ、とか)はその鋭さや重要さに比してトークらしく軽やかに処理される。いくつかのテーゼを背骨にしてケレン味のある物語に仕立ててもよさそうなものだが、あくまで「証言」としてひとつひとつのバンドを語っていくという構成は本書のとっつきやすさであり、美点でもある。

とはいえ、ビートルズとグループサウンズを結びつける定説に対する批判、具体的にはそもそもグループサウンズの土台をつくったエレキブームとビートルズの音楽性は食い合わせが悪いとか(p.16。頁指定はKindle版の情報に準拠するので紙と齟齬があるかもしれない)、むしろアニマルズが重要なんだとか(「GSに影響を与えた洋楽のバンドとしては、ビートルズよりも、むしろアニマルズの方が存在感は大きいと思うんだ。」p.40)いう話は、そこに思いっきりフォーカスして深堀りもしてもらいたいというのが人情であろう。瞳みのる&エディ藩との鼎談でも、当事者の証言として瞳が「ステージで映えるのは、ローリング・ストーンズの曲なんですよ。ビートルズは、意外に盛り上がらない」(p.146)と言っているのも、作曲家や編曲家ではなくあくまでバンドマンであったグループサウンズの当事者の実感が伺い知れて面白い。

資料的価値が高く、その一方でカジュアルに読める対話形式の本ということもあり、広くおすすめしたいところだ。

#Book-Review

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