4月10日(土)15時~ポプミ会開催しました。講読文献は金悠進『越境する〈発火点〉――インドネシア・ミュージシャンの表現世界』(風響社、2020年)。自分でレジュメ切って2時間で駆け抜けた感じになりました。
この本はいろんな意味で面白くて、まずハリー・ルスリというインドネシアの伝説的なミュージシャンを柱にしている、という題材も面白いし、率直に綴られる「ハリー・ルスリについて書く」に至るモチベーションも面白い。アカデミシャンとして研究や個々の論文に求められる明快さや論旨の一貫性がおのずと排除してしまうある人物や出来事。それが、金さんにとってはハリー・ルスリだった、という。じっさい、60ページほどの短いブックレットで描き出されるハリー・ルスリの姿は、論文としてすっきり論じるにはどこかはみでてしまう多面性を兼ね備えている。しかし、だからこそこうしたかたちで日本語で読める文献が残っていることが貴重だと思う。かつ、ハリー・ルスリという特異な個人を語るのみならず、その姿がさまざまな問題意識に接続されていくのがはしばしに読み取れて、二重に面白い。つまり、ハリー・ルスリを知れる面白さと、ハリー・ルスリを論じるにあたってとられたアプローチの面白さと、そのふたつがある。
当日は金さんにもご出席いただいて、ところどころで出た質問についてコメントをいただくことができた。ありがとうございました。ちなみに金さんの最新論文「「シティポップ」なきポップス —ジャカルタ都会派音楽の実像—」はジャカルタにおける西洋のポップミュージックに影響を受けた音楽や近年の再評価を論じたもので、日本発とされる「シティポップ」ブームをめぐる言説を相対化しつつ新たな視座につなげる意欲的な論旨。一読に値するものです。
で、ポプミ会はここまでをファーストシーズンとしてしばらくお休みします。またの機会に。