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 お前いつまで「アイデア」の話してんの? と思われるかもしれませんが、以前から書こうと思っていたこととまさに関連している発見があったので書く。

 星野源「アイデア」の2番にあたる部分にFuture Bass的なアレンジが施されていることは既に多くの話題を呼んでいる。若きMPCの名手であるSTUTSをフィーチャーしたそのビートは、アタックの強いパーカッシヴなドラムや対照的にフィルターがゆるやかなアタックを描くリードシンセ、ストリングスのグリッサンドをピッチベンドのように用いるオーケストレーション(耳での判断だけれどおそらくオーディオをプロセスしているわけではなさそう)など、メインストリームのJ-POPとしては意欲的なサウンドとなっている。

 一方で自身の解説によれば、サウンドとしてはいつもどおりの星野源のようにも思える1番――つまり朝ドラ「半分、青い。」のOPに用いられた部分のアレンジの着想もFuture Bassから得ている、としている。

で、もう1個テーマとしては、僕がすごい好きで2017年……まあ、その前からもちょこちょこ聞いていて、2017年は特に聞いていたビートミュージック。フューチャーベースだったり、そういう、通常はエレクトリックな機材を使って作るような楽曲。特に「チキチキチキチキ……」ってすごくハイハットがもう早く鳴っているビート。そういう音楽のジャンルをですね、生演奏でできないかな?っていうのもいちばん最初の発想のひとつでした。

でも、そういう風にして……だから名残りで「チキチキチキチキ……」っていうのは残っているんですけど、それはタンバリンですごく早くカースケさんがやってくれていて。

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 つまり現状では16分で刻まれるタンバリンがFuture Bassっぽさの痕跡だということなのだけれど、もうひとつ(本人がそう意図したかどうかはさておき)Future Bassっぽさを1番に見出すとすれば、それはAメロからBメロまでの休符の置き方とリズムのアレンジにある。

 「おはよう 世の中」という最初の1行から「すべてはモノラルのメロディ」までのAメロ部分は、「お/はよう/よの/なか」というように、要所要所で歌のなかに休符をたっぷりとあてた、緩急のついた譜割りになっている。また、バンド全体の演奏も、その歌と同期するように休符でタメを作っていて、結果として大胆な余白が強い印象を残す。

 また、「涙零れる音は」以下のBメロ部分ではテンポの解釈がハーフになり、元々速めのテンポであるこの楽曲に対するアクセントとして機能している。そこからサビになだれ込む構成はまあまあオーソドックスだ。

 ここで取り上げた、バンド全体が同期してつくりだす余白、そしてテンポの解釈を変えることによるアクセントといった要素は、Future Bassのサウンドにもしばしば見られるものだ。とりわけ前者は、以前ブログで取り上げた「ビルドアップ‐ドロップ構成」(分水嶺としての「ドロップ」――Perfume『Future Pop』レビュー記事補遺 - ただの風邪。参照)と並んで、Future Bassを含むEDM以降のダンス・ミュージックのプロダクションに最も特徴的な要素と言ってよい。

 その典型的な例として、Wave Racer「Flash Drive (feat. B▲by)」を挙げる。1:32ごろのドロップ以降の展開に見られるように、強拍をヒットするようにリードシンセやドラムサウンドが配置され、ほぼ無音になる箇所も存在する。こうしたキメとタメの対比が、ハイハットの「チキチキ」と並ぶFuture Bass独特のグルーヴを生み出している。

 「Flash Drive」のドロップ以降の展開と「アイデア」Aメロとの比較は明白だろう。「アイデア」Aメロで強拍におかれた全パート同時のキメと、大胆な休符によるタメは、まさにFuture Bass的だ。また、「Flash Drive」でスラップベースが変わらずソロを鳴らしつつも他のパートが同様のキメとタメをキープしている点は、「アイデア」の「鶏の歌声も」から「すべてはモノラルのメロディ」までの部分でギターと他のパートが繰り広げるかけあいを彷彿とさせる。

 「アイデア」の1番から2番への展開はとても急に思えるものの、聴き心地に極端な違和感はない。それは、サウンドこそバンドからエレクトロニクスに変化してはいても、基本的なアレンジの方向性が一貫しているからにほかならない。

 音量の飽和状態(全パート同時のヒット)からゼロ地点までのギャップ――すなわちサウンドダイナミクスを巧みにコントロールすることでキメとタメをつくるという手法は、EDMの常套手段でもある。制作環境が完全にデジタルに移行し、0から1までのダイナミクスのコントロールDAW上で容易に行えるようになったために普及した手法と言える。

 「ビルドアップ‐ドロップ構成」の多くも、ビルドアップを通じて達した音量の飽和状態から、誇張されたベース音やパーカッションによるドロップに移行するダイナミクスの変化にその多くを負っているように思う(厳密には、帯域ごとの音の抜き差しなど、より細かいテクニックが積み重ねられているんだと思うけれど、詳述はしない)。

 そのバリエーションとしては、これもまたFuture Bassでよく使われるFlume型のドロップも同様だ。強烈なサイドチェイン(ある音が鳴らされたときに、他の音が引っ込む効果)や、リズムのすき間を縫うようなリードシンセの配置によって強調されるダイナミクスの変化が、EDM独特のケレン味を生み出している。

 もちろん多様化をきわめるEDMにおいてはこれらの手法も絶対的なものではないし、「ビルドアップ‐ドロップ構成」について書いた際にも触れたように、いまやメインストリームはこうした手法から距離をとりはじめているとも言える。

 とはいえ、DAW環境以降可能になったダイナミクスの大胆なコントロールはEDM以外にもその例が見られ、ポップスの語法として定着する可能性も予感させる。

 たとえば今夏の来日や宇多田ヒカルのリワークでも話題になったSuperorganismは、サンプルの途中に無音を挿入してちょっとした違和感を残すアレンジをしばしば用いる。驚くのは、そうしたダイナミクスのコントロールを応用したアレンジを、小規模なスタジオ・ライヴの場なんかでも実演しているところで、ほかにもスポークンワードとかりんごをかじる音の挿入の仕方なんか、DAW的な環境を身体化して見せてるようなところがある。

 そういうわけで、星野源「アイデア」を端緒に、EDM以降(というか厳密にはDAW以降?)のダイナミクスのコントロールに注目してみた。っつーか最近EDMばっか聴いてたけどこういうのでかいハコででかい音で聴くとマジでいいんだろうな~ 野外のEDMフェスとか行きたいわ~ いま一番行きたいもの、それはUltra Japan。以上です。

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