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健康と能率(7)

風邪、睡眠に加えてめちゃくちゃ厚着してストーブつけてお水どんどん飲んでたら症状が収まった。目当ての資料をこちらの凡ミスで発注しそこねて作業が止まり、せっかくなのでちょっとしたブログ記事を書こうと思ったが、構想段階で挫折。よくないね。

横川理彦『サウンドプロダクション入門 DAWの基礎と実践』(BNN、2021年、アフィリンク注意)を読む。「入門」と謳っているだけあってDAWの理念からAbleton Liveの具体的な操作まで丁寧に解説しているのだが、実は現代のポップ・ミュージックとは(あるいは音楽とは)いかなるものかを多角的に考えるための足場みたいな本だ。音楽はどのように聴かれ、演奏され、制作され、流通してきたか。広範なトピックが実践の方法といっしょに語られる。だからDAWの使い方はひととおりわかってるよっていう人も一度目を通すと面白い。

他方、DAWなどのテクノロジーがヨーロッパの近代的な音楽観をもって世界を植民地化(colonize)しているという批判はいろんな方向から起こっていて、最近もこういう記事が出ていたみたいだ。

Decolonizing Electronic Music Starts With Its Software | Pitchfork

邦訳がWIREDに載っているので読める方はそちらでも。プロフェッショナルな機材に比べればずっと安価なDAW(しばしば海賊版)がもたらす制作環境は急速にグローバル化していて、それがさまざまな現代的なポップ・ミュージック/ダンス・ミュージックの誕生を促している。Amapianoでもバイレファンキでもいいが、近年注目をあつめる魅力的なジャンルの多くはそうした技術的条件のグローバル化(と、そこからの逸脱や抵抗)に基礎づけられている。それを発展と呼んでシンプルに言祝ぐことはできないが、かといって一概に批判しきれるものでもない。いずれにせよ作品や言葉を通じてその様子をうかがい知ることができる本といえば、日本語だったら大石始/吉本秀純監修『GLOCAL BEATS』(CDジャーナルムック、2011年、アフィリンク注意)があるし、上掲の記事にも登場するJace Clayton (aka DJ/Rupture) が著した『Uproot: Travels In 21st Century Music and Digital Culture』(2016、アフィリンク注意)はかなり面白い本で、なんとか翻訳されてほしい(なんなら翻訳したい。前から言ってるけど。こういう話って誰にしたらいいんだ? もう訳して持ち込んだらええんか?)。でもどこに読まれるのか正直わかんないし、刊行から5年経ってるからなぁ。なんともはや。英語をそれなりに読める人は手にとって見てほしい、Kindle版は結構安い。

Major Lazerがキューバでのライブを実現させるまでの顛末を描いたドキュメンタリー『Give Me Future』もそういう視点で見ると面白い。Diploが現地の若者と対話する場面とか味わい深いし、キューバで政府の目をかいくぐる独自のアングラな情報インフラが草の根で構築されている様子なんかもちらっと出てくるのが気になった。

直接は関係ないけど別文脈からの平均律批判みたいな話で『サステナブル・ミュージック』(アフィリンク注意)は面白かった。くわしくは上の拙評で。

きょう(と書いているが、実はこの日記は一日の記録ではなく、何日かにまたがったり前後したりしている)は某ポッドキャストの収録があり、みっちり話したのだが、終盤に出てきた話があまりに響いてそれを聞きながらじんわりしてしまった。また告知します。人と話した日はまったく頭が使い物にならなくなるからだらだら過ごしていたのだけれど、そういえば積んだままの洋書がいくらかあるのを思い出して、少しだけ読んでから寝ることにする。

カテゴリー: Japanese