ポプミ会報告(西村紗知「椎名林檎における母性の問題」(すばる2021年2月号掲載、すばるクリティーク賞受賞作))

2月6日(土)、第4回ポプミ会を開催。西村紗知さんによるすばるクリティーク賞を受賞した論考「椎名林檎における母性の問題」を読んだ。批評同人LOCUSTの伏見瞬さんがつないでくださり、西村さんご本人にも参加いただいた。本人降臨回。

これまでポプミ会で読んできた文章は論文だったりレクチャーを元にした書き起こしだったりして、比較的リーダビリティが高いものが多かった。けれども「椎名林檎における母性の問題」は冒頭からめちゃくちゃ圧縮されたレトリックで論旨が提示され展開していくもので、いわゆる批評らしい批評――まあざっくり言えば「論文」でも「解説」でもないなにか――という印象があった。それだけに、読書会でどのように読み込んでいけるのか? をなかなか掴みづらく感じていた。実際、自分がまったく頭がおいつかなくなって会の途中で機能停止してしまうトラブルまで生じてしまった(参加者のみなさんすみませんでした……)。

しかし、論中に登場する固有名詞(江藤淳、加藤典洋、河合隼雄、上野千鶴子……)が持つコンテクストを参加者、というか伏見さんから補足してもらえたり、熱心に読み込んだ方から疑問点や感想も提示されて、有意義な会になったように思う。

個人的にアツかったのはひととおり論考を駈け抜けたあとで西村さんに伺ったビハイド・ザ・シーン的なポイントで、いかにもキーとなるあの引用が実は偶然の出会いの産物だったとか、なんとか…… 構想から着手、完成までのひとつひとつのお話がとんでもなく面白く、かつものを書いたりする人にはとてつもないエンパワメントだった。どこかできちんとお話伺いたいところでもある(その場合どういうたてつけにするかが難しいけれど)。一言印象的だったのは、この論考が「生活実感から生まれた」ものだと断言されていたことか。

都合4時間という長丁場にも関わらず参加してくださったみなさん、ありがとうございました。いつもなら次回の予定なんかざっくり話すんですがもう余裕がなくなってしまったので、そこはまたサーバーのほうで連絡します。

ああ、ご本人の話が面白かった、ですますのもよくない。論考の魅力というのは大きく、この論考自体を読書会という場で議論を発展しつつ整理しつつ読むことで、論旨というよりも、書き方という点でめちゃくちゃ学びがあったのだった。

たとえばエッセイ的な導入からはじまって、論考全体をつらぬくモチーフが極度に圧縮されつつ提示される第1節から加藤典洋の直観から導かれた椎名林檎の作家性を、最低限の道具立てによる簡潔な作品分析によって肉付けしていく第2節の流れは凄いと思う。

以後、歌詞にあらわれるモチーフから作風の変化を読み解きつつ、江藤淳が突然参照されて議論がドライブし、「母性」の問題にフォーカスがあたっていくところも(その道具立てがどこまで有効たりうるかはひとまずおくとして)面白い。なんというか、印象批評からややアカデミックな分析、そして文芸批評までを貫通してしまう書き方自体が。

第8節においてはギアがもう1段入って一気に射程が社会論まで広がり、第1節以上の密度でさまざまな問題提起が矢継ぎ早に行われる。アジテーションに達しそうな言葉の連なりによって、椎名林檎に向けられていた批判的な眼差しが実はリスナーの側、読み手の側、社会の側にこそ向けられてしかるべきものであることがわかる。いい意味でドラマチックで、そのドラマによってこそ飛躍にも思えるギアチェンジが可能になっているように思う。

さっき、「批評らしい批評だけに読書会でどう読んでいけるのかわからなかった」ということを言ったけれど、それをもうちょっとくだくとこうなる。最初に問いがあり、仮説をおき、それを検証する……というような、いわばQ&Aに還元できるような文章ではない。むしろ、問題意識があり、それに自ら応答する、というダイナミズムによって駆動し、説得するよりもそうしたダイナミズムを読み手のなかに喚起しようともしている。そのとき、「こういう主張がこういうロジックで行われていますよね、その道具立てはこれですね、勉強になりますね」みたいなまとめ方って多分向かないよな、ってことだったのだと思う(終わって思い返してみての結論だけれど)。でもそういうのにこだわらないでやってみるぶんにはすごく面白いなと。

しかし相変わらず、場のオーガナイズというか、ファシリテートは難しい。参加者も増えてきたし、なるべく「喋る人、聴く人」みたいな垣根が低くできるようなバランスを目指したいが、やってみるといっぱいいっぱいだ。割り切って、気のおけないおしゃべり感覚でやっても別に困りゃしないんだろうけどもね。

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