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カテゴリー: Japanese

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沈黙を語る人 – 想い出アンチエイリアス(お仕事報告)

ハードコア・テクノからハウス、ヒップホップまで横断的に活動を続けるナヲトスズキの沈黙を語る人名義でのシングル「想い出アンチエイリアス」が4月17日(水)リリースされます。ご依頼を受け、プレスリリースを担当しました。リリース情報は以下のとおり。

アーティスト名:沈黙を語る人
タイトル:想い出アンチエイリアス

リリース日:2024年4月17日(水)
レーベル:Extal
各種ストリーミングサービス
及びBandcampにて配信・販売予定
URL:
https://linkco.re/GG1UTm34
https://extal.bandcamp.com/album/-

作品解説は以下のとおり。

 ハードコア・テクノからヒップホップまで横断的に活動を続けるナヲトスズキが、沈黙を語る人名義でのシングル「想い出アンチエイリアス」をリリースする。ローファイで、アンビエント的なサウンドスケープを湛えたハウス・トラックにのせ、自身のヴォーカルを通じてセンチメンタルな感情と情景をリリカルに表現。ナヲトスズキのディスコグラフィのなかでも異色のパーソナルでエモーショナルな1曲だ。

 ほろ苦い実体験を下敷きにしつつ、画像処理の専門用語が散りばめられたポエジーあふれるリリックが印象的な「想い出アンチエイリアス」。トラックは、京都で活動するプロデューサー/ヴォーカリストのEulalieによる楽曲、「Taranai」(「Craving for Dreams」2021年収録)を4つ打ちに大胆に再構築したものだ。かねてからこの曲を愛聴していたナヲトが、直接サンプリングの許諾をオファーしたという。ミックス・マスタリングは、かねてから交流の深いHONDALADYのマルが担当した。

 90年代以来の長いキャリアの中でさまざまなスタイルを試みてきたナヲトだが、センチメンタルな感情をてらいなく表現したという点では異色であり、ある意味では新機軸と言えそうだ。

ぜひチェックしてみてください。

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日曜日のプレイリスト 009 2024-04-14

和田彩花さんらが結成したオルタナバンドLOLOET、ダビーなエフェクトをふんだんにかけながらオルタナっつーかプログレッシヴに疾走するライヴがめちゃくちゃいい(ほかにも同じチャンネルに数曲あがってます)。テープ買いました。 limited 1st Cassette”une petite pensée” | LOLOET 

浦上想起バンドソサエティめちゃくちゃいいぞ……。

Cindy Lee『Golden Jubilee』、すごく評価高いけどサブスクにないしまだリリースされてない? とか思ってたら、YouTubeでのフルストリーミングとジオシティーズ(ジオシティーズ!?)のサイト経由での音源配布・ドネーションのみで視聴可能。Bandcampすらない。なによりびっくりするのはジオシティーズのサイトで、90年代からタイムスリップしたみたいなHTML手打ちの美学にあふれている。幽玄でフォーキーなドリーム・ポップとでもいおうか(hypnagogic popとか言われててなつかしくなったぞ)、内容ももちろんよい。

でここまで書いて思いましたが、このプレイリストは第2・4日曜更新なので、第1・第3日曜でこういうYouTubeでなんか見た~みたいな記事更新するのもいいかもしれませんね。

さて、プレイリストはこちら。

なんかKポ、しかもガールズグループ多めになっちゃった。コメントは続きから。

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日曜日のプレイリスト #008 2024/03/24

毎度おなじみプレイリスト更新の日です。その前にせっかくなんで最近見て面白かった動画の話とかもしてみましょう。

ちょっと前にイギリスのクイズ番組でのやり取りがTwitterでバズっていた。「1990年代初頭にレイヴ・シーンとレゲエのサウンド・システムから生まれて発展したダンス・ミュージックで、代表的なアーティストとしてA Guy Called GeraldやGoldieがいるジャンルの名前は?」という問題に回答者は「ドラムンベース?」と答えたのだが、不正解。そこで司会者が放った「残念、ドラムンベースは不正解。ジャングルとお答えいただきたかった I can’t accept drum & bass. We need jungle, I’m afraid」が声ネタにぴったりすぎるということで、これを使ったジャングルがわんさか作られだした。そんなバズをきっかけに、ドラムンベースとジャングルの違いってなによ? というのを解説する動画をResident Advisorが公開。ジャングル入門編として、その文化的背景やサウンド、使われるテクニックなんかが紹介されていて、おもしろいです。

さてプレイリスト。

各曲コメント

駒形友梨 – 2 world

声優・アーティストの駒形友梨のニューアルバム『25℃』よりミニマルかつキュートなラヴソング。シンプルなリズムマシーンのビートにスキマをいかしたファンキーなシーケンスが絡みつつ、ヴォーカルも少しゆるめに脱力気味のニュアンスめちゃ良い!

NiziU – SWEET NONFICTION

NiziUの新曲は前作「Heartris」の鮮やかさがどうしても印象に残っているのでなんとなく地味な印象になってしまったのだけれど、A~Bメロの細かく動くリリースカットピアノやベースライン、ベッドスクィーク的なSEなど小技が聴いていて実は結構「Heartris」の延長線上っぽい感じも。良いです。もうちょっと突き抜けたらQWERみたいにもなりそうだけど。

ena mori – Heartache Generation

インドネシアのSSW、ena moriの新曲。最近だとTomgggとのコラボも良かったですね。ベッドルーム的かと思いきや割りと鳴りは堂々としたポップで、めちゃでかいステージが映えそうなスタイルなんですが、新曲もまさにそんな感じ。サウンドのメリハリもヴォーカルの幅も広く、「格」を感じる……!

吉澤嘉代子 – オートバイ

吉澤嘉代子のニューEP「六花」から小西遼プロデュースの1曲。ヴォーカルのニュアンスの幅で言うといま吉澤嘉代子って相当なものがあると思っていて、シネマティックというか、劇的な展開がめちゃくちゃ似合う。この曲も、ストリングスの華麗さとビートの荒々しさの対比が楽曲の展開からパフォーマンスまで同期していて、ちょっとしたスペクタクルになっている。もっと広々とした空間を感じたい気もするけれど……。

太田ひな – Still Love

東京を拠点とするSSW、太田ひなのシングル。某夜夏さんが紹介しているのを見て聴いたらとてもよかった。ゆったりとしたピアノとヴォーカルのフレージングに対するせわしないビート。こういう構成の曲の醍醐味は、グルーヴがいくつものレイヤーにわかれて重なり合うことで生まれる浮遊感だと思うけれど、それと歌声や発声がめちゃくちゃフィットしている。

鞘師里保 – alchemy

鞘師里保の新曲、提供しているのは碧海祐人! ということで聴いてみると、このアーティストらしいフォーキーな叙情がかくれたネオソウルで、鞘師里保のヴォーカルも力が入りすぎないクールさと感情表現のアツさのバランスが良い。全体のグルーヴはスウィングしつつ、ドラムのビート(特にハイハット)はスクウェアなことで生じる半透明のタイム感が心地よい! ドラマのエンディングテーマなんすね。

YOUNG POSSE – Skyline

YOUNG POSSEの新譜、1曲めでRageをやっていたり(なぜ今?)、かと思えばブーンバップ多めだったり、アフロビーツも取り入れていたり、方向性が固まってるのかそうでないのか微妙ながらクオリティはやはり高い。ラストの「Skyline」は、高域がぱきっときらっとしたドリーミーな曲なのにビートががっつりジャージークラブ。ジャージークラブさすがに食傷気味じゃね? と言いつつなんだかんだどれも一捻りがあって聞いてしまうよねぇ。

Anysia Kym – Amplitude

ブルックリンのプロデューサー/ドラマー/ソングライター、Anysia Kymのニューアルバム『Truest』から。ローファイでチルめでクールなR&B、ちょっとドラムンとかダンスビートも入って……というとなんかトレンドっぽいが、ざらっとした手触りやコラージュっぽい感覚はむしろオルタナティヴなブーンバップ勢を聴いている感じと近い(MIKEが参加してたりもする)。アルバムのラストを飾る「Amplitude」はアンビエント寄りの浮遊感あるドラムンにささやくようなヴォーカルが乗っていたと思ったら、カットアップで終わる。不思議で心地よくてぞわぞわする!

Iglooghost – Coral Mimic

Iglooghostが5月リリース予定のアルバム『Tidal Memory Exo』からの先行シングル。モトリックなエイトビートを中心としたポストパンク的な楽曲ながら、ひとつひとつのサウンドはIglooghostらしい凝ったデザインになっていて、リヴァイヴァルというよりもミューテーションって感じ(アルバムに寄せているコメントに倣うならば……)が面白い。

Adame DJ – Acid Baile 2

ブラジルはカショエイロ・デ・イタペミリンのDJ/プロデューサー、Adame DJのマジで名は体を表すトラック。2があるということは1もあるのである。ビキビキのアシッドシンセとバイレファンキのビートが組み合わさった、あまりにもタイトルそのままといえばそのままながら、そのまんまだからこそめちゃくちゃぶち上がるタイプの間違いないバンガーである。

aya – Leftenant Keith

ロンドンのプロデューサー、ayaのソロとしてはim hole以来3年ぶり?となるEP「Lip Flip」より、そのネタ使いありかよ! となるやつ。日本人としてはDJ PaypalのSlim Trak的なキワモノ感を覚えてしまうが、原曲のイメージにとらわれることなくヴォーカルのリズムをエディットしてフリーキーなリズムへと生まれ変わらせる巧みさには脱帽する。im holeで大きな役割を果たしていた自身の声はほぼ聴かれないが、そのぶんEcko Buzzの参加やこの大ネタの存在感が興味深い。ちなみにEPの売上はayaの整形手術(性別移行に関連する顔の女性化手術)にあてられるそう。

Dj Anderson do Paraiso, MC PR – DUVIDA NÃO LETICIA

Nyege Nyege Tapesがふたたびブラジルのファンキシーンからのアルバムをリリース。ベロ・オリゾンテのファンキシーンで活躍するDj Anderson do Paraisoの作風はリオデジャネイロのアグレッシヴさともサンパウロの過激さとも違うミニマルでダークなもの。暗闇のなかでフラッシュを焚かれるアーティストの姿をフィーチャーしたアートワークはまさにそんなイメージにぴったり。DJ K(こちらはサンパウロ)のエクストリームさと対比しつつ聴いてもよさげ。

Toupaz – Hiccup

オーストリアはグラーツのプロデューサー/DJ、ToupazのニューEPより表題曲。「しゃっくり」って曲名のとおりしゃっくりみたいに引きつった声らしきサンプル(もしかしたらそう聞こえるだけで電子音かも?)が出てきて、なんや往年のDon’t Laughとかそういうのを思い出してしまうが、パーカッシヴなシーケンスの妙と要所要所で登場するシンセのテクスチャが面白くリスニング視点でも引き込まれる。やっぱりこういうベースミュージックはテクスチャが面白いかどうかで聴いてしまうところがあるなぁ。

Scratcha DVA, Natalie Maddix, Scotti Dee, Mad One – Wishlist

ロンドンでグライムやベースミュージックと南アフリカのサウンドを意欲的にフュージョンし続けるプロデューサー、Scratcha DVAのEPがリリース。LightDarkの対比的な二作が同時に出てるんだけど、Lightのほうから1曲。ヴォーカルは結構メロディアスなんだけれどベースラインがちょっと癖のある、中東っぽいスケールで進んでいてものすごく繊細な色合いになっている。etherealなような、大地っぽいような、トランシーさが絶妙! 全体的にLightのほうがいまの気分だけれど、Darkの「Drillers」とかもかっこいいっす。

Tyla – Safer

「Water」が世界的なヒットソングとなった南アフリカのTylaによる待望のファーストアルバム。曲尺はどれもタイトでポップソング然としているものの、この「Safer」のようにカタルシスへ安易に向かわずじりじりと緊張感をたたえながら感情を鷲掴みにするスタイルはとてもクール。かっこいい。「On and On」や、特にラストの「To Last」あたりでAmapiano的な美学をばしっと聴かせているのもぐっとくる。2024年、というか2020年代を代表する1枚として記憶されるべきではなかろうか。

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[書評]川上幸之介『パンクの系譜学』(書肆侃侃房、2024年)

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川上幸之介『パンクの系譜学』(書肆侃侃房、2024年)(Amazonアフィリンク)

倉敷芸術科学大学の准教授で「Punk! The Revolution of Everyday Life」展やゲリラ・ガールズ「Reinventing the “F” word: feminism!」展などをキュレーションしてきた川上幸之介の初の単著。書名が示す通り、「パンク」というカルチャーの系譜を音楽ジャンルにとどまらないさまざまな角度から辿っていく本になっている。

読みどころはさまざまあるけれども、個人的に興味深かったのは第3部の「パンクのアートにおける系譜」。ダダ、レトリスム、シチュアシオニスト、キング・モブの活動を取り上げ、パンクを20世紀ヨーロッパを中心とするアヴァンギャルドの系譜に明確に位置づけている。たとえばマルコム・マクラーレンがシチュアシオニストの影響を受けていて……みたいな話はよく耳にするけれど、単にトリヴィアルなエピソードにとどめず、芸術と交わる政治的前衛としての性格を歴史的に辿りながら描き出していくのがとてもおもしろい。

そもそも、レトリスムやシチュアシオニスト(およびその分派や同時代の政治的前衛)の活動をその歴史的経緯を追いつつ日本語で読める文献はさほど多くないんではなかろうか。特にレトリスム。アヴァンギャルドというとダダにはじまりシュルレアリスムがありシチュアシオニストがあり……みたいな感じで、レトリスムはシチュアシオニストとの関わりからその前史として言及されるくらいの印象がある。さらにキング・モブを始めとした前衛たちの活動について、その独自のコンテクストも含めながら論じている本って恥ずかしながら他に知らず、とても勉強になったし、面白かった。

第4部の「セックス・ピストルズ以降」では、さまざまなパンクの潮流がその思想的背景を丹念にあとづけつつ紹介されている。DIYカルチャーとしてのパンクがときに直接行動によって、ときにトリックスター的な撹乱によってシーンを広げていくさまが描かれていてこちらも面白い。

また、第5部では「アジアのパンクシーン」が取り上げられ、特にインドネシア、ミャンマー、日本のパンクシーンにそれぞれ一章ずつ割かれている。最終章の第21章「日本のパンクシーン」でフィーチャーされるのは、橋の下世界音楽祭。ライヴハウスやレコードショップ、あるいは音楽メディアを舞台に繰り広げられるような「パンクシーン」ではなく、政治・思想・音楽・アートが交差する場としての「パンク」を体現する音楽祭を取り上げるところに本書のユニークさがある。

非常に勉強になる……一方で、文章は若干読みづらく、アカデミックな専門書みたいな味気なさというわけでもなければ、一般書のこなれた文章という感じでもなく、少しつまづいてしまう。英語文献からの引用もあまりうまく訳せていないのではないか、という気がする。特に音楽関連の記述については、誤訳では……? と思う部分もある(日本語でいまいち意味がとれず、原文を探して読んでみたりした)1。誤字・脱字もそこそこあり、こればかりは出版物にはつきものなのだけれど、編集がもうちょっとリーダビリティを気にした介入をしてもよかったのでは……という気がする。

  1. 本題とずれるので注においておくが、p.84で引用されているデイヴ・レインによるブリティッシュ・インヴェイジョンのサウンドの特徴に関する記述は、まったくわからないというわけではないけれども、やけに遠回しに感じられる。「しばしば1小節に1回」という挿入句が、原文からみれば、また音楽的に考えれば分解されたギターストロークにかかるべきところ、本書の訳だとベースとドラムにかかっているようにも読めてしまう。「拍子」とするべきtime-signaturesが「時間的特徴」となっているのも、音楽に関する文章としてはちょっとどうかと思う。
    また、これは単純に事実誤認だけど、「ビーフハートの1969年のファーストアルバム」として言及されているTrout Mask Replicaはサード・アルバムで、ファーストは1967年のSafe as Milkだろう。もしかしたら最初の二枚はカウントせずにTrout~をファーストとする慣習があるのかもしれない。あんまり詳しくないので……。その前後、Pere Ubuのカタカナ転写がペール・ユビュとフランス語風になっているのも違和感がある……(英語風に「ペル・ウブ」というのが日本でよく流通している表記だし、メディア出演の際の映像を見てもそれで妥当だと思う)。さらに流れでアルフレッド・ジャリの『ユビュ王』が「ユビュ・ロイ」と表記されているのもちょっと変だなと思う。他にも気になった部分なくもないけれど、自分がわかる範囲で違和感があった+調べる余力があったのはこのあたりだった。ああ、すげー細かいところだとブリロ・ボックスがブリオになってた(p.13)けど、これは単純にタイプミスだと思われる……。 ↩︎
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三宅唱監督「夜明けのすべて」を見た(ネタバレあり)

三宅唱監督作品「夜明けのすべて」を見てきた。三宅唱の作品は前作の「ケイコ 目を澄ませて」ではじめて見てほかに見てないのだけれど、「ケイコ」でなんとなくノイズに感じた部分が今回はすんなりと見られたように思う。たとえばモノローグやオフの声を使ったモンタージュで場面を一気に進めるのがなにか苦手だったのだけれど、今作ではむしろそれがしっくりきた。

というか、登場人物のコミュニケーションや身振り、そしてなにより表情の機微にものすごく豊かなものが詰まった映画だけれども、それをひとつのまとまりとして総括するような役割はモノローグにあるような気がする。藤沢が自らPMSを抱えるつらさを吐露するモノローグからはじまって、山添がパニック障害からの回復を語るラストのモノローグでこの映画は終わるわけだけれど、その内容、ある種の告白としての対称性が、ミクロなひとつひとつの出来事や身振りをひとつの感慨へとまとめあげているというか。

加えて、山添と藤沢がふたりで取り組むプラネタリウムの解説の台本を読み上げる声を土台に時間の経過を示すモンタージュが行われるくだりも印象的だった。あれは別に会話や対話ではないのだが、ひとつのテクストをわけあって読むということ自体が、ふたりのあいだで築かれてきた関係を象徴しているみたいで、涙腺がゆるみかけたのだった。映画のハイライトをなす移動式プラネタリウムの場面も、直接交わしてきた言葉以上に、そこで読み上げている藤沢の言葉を外で受付を担当する山添が耳にして顔をほころばせる、その瞬間にもっとも精神的な交通が起こってるように見えた。さらにそのテクストには数十年前から届いたテープやノートからの声が重なっているというのも味わい深い。

しかし、「ケイコ」もそうだったんだけれど、このひとの映画は空間がどれも変で、「ケイコ」のボクシングジムも、「夜明けのすべて」の栗田科学のオフィスも、狭い割には入り組んでいる。栗田科学のオフィスなんか、入ってすぐの事務室から数段階段をあがったところに窓のついた会議室があり、そのまま続く廊下を抜けると作業場がある……はず。なんかぱっと間取りが思い浮かばない。単に入れ子になっているというだけではなく、それによって複雑な光の効果がうまれていて、場面によって表情が変わり、見ていて飽きない。室内だけじゃなく、山添が藤沢の家に向かって自転車をこぐシーンでも、どのカットを見ても「この道路、まるでセットみたいだな」と思ってしまう。何度か出てくる高架(っていうほど高架じゃないか?)下のトンネルもそう。

というわけでどうも空間的には書き割り的(何度も挿入される夜景とか、あからさまなほど)なのだが、にもかかわらず狭苦しさや箱庭感に回収されないのは、やはりそうした奇妙な空間のなかで奥行きを強調した構図や演出、光のニュアンスを捉えた撮影が大きいのかなと思う。逆に、光を狭く使うことで広々としているはずの体育館をなかば密室のように見せていたグリーフケアの場面を見ても、意識的なんだろうと思う。その意味で移動式プラネタリウムはそうした空間と光をいかす象徴的な道具でもあるように思えた。暗いプラネタリウムから出ると、光が差し込むもののやや薄暗い体育館に出て、さらに外に出ると、夕暮れ近くの陽光が差している。このグラデーションがこの映画そのものという気がしてくる。これも「ケイコ」で思ったことと、似ているというか、やっぱ作家性なのかな。

なんだかんだと言ったものの、やはり最終的には、主演のふたりをはじめ、出演した役者陣の演技がどれも素晴らしく、マジで具合悪いときにはちょっと大丈夫かと思うくらい具合悪そうに見え、マジで元気になってきたときにはよかったね~って言いたくなるくらい元気に見える上白石萌音と松村北斗は本当によかった。あと結構くすっと笑える場面がたくさんあった(髪切る場面はじょきん!って行く段階で吹き出してしまった)のもよかった。よかったです。

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ユリイカ2024年3月号 特集=柴田聡子 に寄稿しました

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ユリイカ 2024年3月号 特集=柴田聡子 ―『しばたさとこ島』『さばーく』『ぼちぼち銀河』、そして『Your Favorite Things』へ…日々を抱きしめる言葉と音楽―

ニューアルバム『Your Favorite Things』をリリースした柴田聡子を特集したユリイカ2024年3月号に、「「後悔」とそのスタイル」という文章を寄稿しました。名曲「後悔」のかんたんな分析と、「後悔」と通じる構成をもつ楽曲を柴田さんのキャリアのなかから何曲かピックアップしてそのスタイルについて書いています。まあ内容はシンプルで、言葉とリズムの関係を淡々と観察してみたというだけではあります。

「「後悔」で書くぞ!」と思ってからはとりあえず楽曲の構成をスプレッドシートにおこし(1行=1小節)、リズムの配分を確かめ……と割とシステマチックに分析していったんですが、書き出すたびに「なるほどこうなってんだな」と発見があったので、やっぱり細かく聴くっていうのは楽しいし大事だと思いました。

また、『Your Favorite Things』に関する柴田聡子インタビューを現在売りのミュージック・マガジン3月号に寄せています。

ミュージック・マガジン 2024年3月号

はやくもものすごい絶賛の嵐、ってな感じの『Your Favorite Things』ですが、正直こんなに絶賛!? って軽く困惑もしています。逆に「あざとい!」って敬遠されるんじゃないかとちょっと不安でもあり。先行シングルのネオソウル的な路線や、Side Stepみたいなダンサブルなサウンドでいくのかなと思ったら、もっとアンビエントぽかったり、シネマティックなアレンジを要所要所で入れてきたのがすごく効いているな、という印象です。

いずれにせよ、とても良い作品であり、今後の飛躍にさらに期待がかかる(まだまだ「次」を感じる)ので、わくわくしながら聴くのが吉かと。

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サ柄直生, uami「おぼろのうた」について(お仕事報告)

サ柄直生, uami「おぼろのうた」のリリースにあたり、プレスリリースの執筆を担当しました。

以下、プレスリリースの作品紹介のテクストです。

 プロデューサー/トラックメーカーのサ柄直生、そしてシンガーソングライターのuamiがEP「おぼろのうた」をリリースする。2021年のシングル「まねごと」をきっかけに積み重ねてきたコラボレーションの成果を届ける、全5曲の濃密な作品だ。

 本作で鮮烈な印象を残すのが、ビートレスなサウンドで劇的な展開をつくりだすサ柄のプロダクションだ。一方で、uamiによる聴く者の耳を捉える繊細なメロディと、それを届ける歌声の力があざやかに浮かび上がっていることも本作の魅力のひとつ。まさにコラボレーションならではの化学反応だ。

 いわゆるキャッチーな「歌モノ」とは一線を画しつつも、本作はまぎれもなく「歌」にフォーカスしたEPだ。リズムやコード進行によるドラマのかわりに、メロディと言葉に寄り添ってシネマティックなサウンドを構築するサ柄のアプローチと、自身が得意とするヴォーカルのレイヤーによるハーモニーをあえて抑制してメロディにフォーカスしたuamiのスタンスが、見事に噛み合っている。

 4曲目に収録された「よあけ」には、uamiとのユニット・avissiniyonでの活動経験もある気鋭のシンガー・ソングライター、君島大空がゲスト・ヴォーカルとして参加。飾り気のないメロディに豊かなニュアンスを加えるふたりの歌声が耳を捉える。

 また本作はサ柄がillequalと立ち上げるレーベル、euraがリリースする最初の作品でもある。サ柄・uami両者の活動に加えて、euraの今後の動きにも注目して欲しい。

プレスリリース執筆にあたってはおふたりに作品についてヒアリングしましたが、uamiさんのシグニチャーにもなっているヴォーカルのレイヤリングは今回あえて抑えているそうです。それによって逆にヴォーカルとメロディの力が浮き彫りになっているのはもちろん、サ柄さんが「ヴォーカル以外の音も『歌』だと思っている」という旨おっしゃっていたのが印象的でした。「歌声も音だと考える」って割りとよくあると思うんですけど、逆に「全部の音が歌」ってあんまり言わないじゃないですか。でも「おぼろのうた」を聴いているとたしかにそんな気がしてくるんですよね。

uamiさんもメロディに力を入れた部分があり、たとえば5曲目の「苞」を書くにあたっては、最近のJ-POPで好まれる凝ったメロディを研究したりしていたそうです(一方で、いつもどおり一筆書き的にさらっと書いたメロディも多いらしいのですが)。個人的には、素朴さと繊細なニュアンスが緊張感あるバランスで同居しているM3「惑ひ」や、耳に残るキャッチーなフレージングが歌声の魅力を活かすM4「よあけ feat. 君島大空」が特に素晴らしい。

EPながら濃密な一作なので、ぜひ聴いてみてください。

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日曜日のプレイリスト #006

今回、Apple Musicに入ってない曲があったため(時間差?)、Apple Musicのプレイリストは不完全です。Klinical, Killa P – Readyは別途チェックしてくれ~(YouTube

楽曲リスト&コメント

Luísa Sonza, MC Kevin o Chris – recadin no espelho

ブラジルで勢いを増している気鋭のシンガー、Luísa Sonzaのニューシングル。リオデジャネイロのファンキMCでソングライターのMC Kevin O Chrisが参加した、冷ややかでアトモスフェリックなファンキのビートがかっこいい1曲。Kevin O Chrisのやわらかな歌心あるパフォーマンスもあいまって、クールななかに親密さを感じるすごくバランスのとれたプロダクションで、このミニマリズムはポップなファンキともアンダーグラウンドなファンキともちょっと違った印象で、とてもいい。

DBN Gogo, Omagoqa, Baby S.O.N, Yumbs, Dee Traits, Dinky Kunene, Soul Jam – SKOROKORO

これは完全にaudiot909さんのリコメンドで聴いたもの。南アフリカのプロデューサー、DBN GogoのEP「Click Bait」の冒頭の1曲。シャッフルしたシーケンスにのるパッドやリフはまるで初期Floating Poitsみたいなフィーリングで、でもパーカッションのノリはアフロハウスな感じなのがすごくハマった。間違いないバンガー(昨年リリースされている)のSAdesFakSHenBenny Benassiの名曲(NSFWなMVでおなじみ……)をアマピアノにアレンジしたクレイジーな1曲でそちらもよい。

ところでこれきっかけであらためてアマピアノや3 Stepのプレイリストを聴いてたりしたんだけど、3 Stepって小節頭から「ドンドンドン……」って3拍入るようにも「ドン……ドンドン」って3つ目のキックが小節頭のアクセントになるようにも聴こえる気がする。

Little Simz – Mood Swings

Little SimzのサプライズリリースされたEPはベースミュージック系のプロデューサー、Jakwobとタッグを組んだ渋めのダンスチューン満載で、Infloと組んだアルバム群よりも好きだったりする。Drop 6も好きだったな。この曲はビートのパターンこそジャージークラブっぽいが、GqomのUK解釈がグライムとかと合流した流れ、ScratchaDVAとかを連想するようなダークさがすごくいい。

clear eyes – i’ll hold u

Marian HillのJeremy Lloydによるソロ・プロジェクト、clear eyesのシングル。ミニマルなビートに、パーカッシヴなアタックが強調されたストリングスやピアノのサウンドが構築する上モノが絶妙にマッチしている。おれ、こういう点がわさわさ寄り集まってるみたいな音に弱いのかも。

Tomggg, raychel jay – Sweet Romance

Tomgggさんの新曲はひさびさにLAのシンガーソングライターraychel jayを迎えた1曲。いつもどおりの弾力あるチャーミングなサウンドとテンション低めのリラックスしたヴォーカルのマッチングが素晴らしく、声のテクスチャを強調する平歌からリバーブがかかってボーカルがハモリだすサビまでの前半の流れがめちゃくちゃスムース。気づくとサウンドの世界に没入しているみたいなこういう導線のつくりはさすがだと思う。

RYUTist – 君の胸に、Gunshot

D.A.Nの櫻木大悟が提供した、暴れるシンセとクールなヴォーカルが溶け合うトランシーなRYUTistの新曲。『(エン)』でも相当尖ったと思ってたけど、ここまで行っていいのか? とちょっと不安になるレベル。これはパフォーマンスがめちゃくちゃ見たい。Wicked! Wicked!

Crystal Kay – That Girl

Crystal Kayまでジャージークラブやるの? と思ったがどうもこう、最近よく聴くポップ化した(ざっくりいえばBoy’s a Liar以後の……)スタイルというよりももっとオーセンティックな感じでちょっとナツいまである。とクレジットを確認すると、☆Taku Takahashiさんに加えてR3LLが編曲に参加。なるほど~。

ぶっ恋呂百花 – ぶっころにゃん♡

この曲をもって12ヶ月連続リリースを駆け抜けたぶっ恋呂百花。ジャンクなポップさで突き抜けてもいいところにちょっとetherealな雰囲気のドラムンパートが入ってくるあたりにキュートにも露悪にも単純に振り切ってやらんぞという矜持を読み込んでしまったりして。おつかれっした。3月にはリリパというか連続リリース達成杵パーティもあるらしいぞ。

Phocust, MIKESH!FT – Neon Flex

アメリカのプロデューサー、PhocustとMIKESH!FTによるシングル。めちゃくちゃチージーなコード感とメロでも馬鹿みたいなサウンドでエグいヨレ方したドロップになった瞬間に「これや~~~!!!!」となってしまうのでやっぱりメロディックなダブステップを聴くのはやめられない。ドロップのいかれたパターンは音の鋭さ含めてめちゃMIKESH!FT感があってそれもよし。

bastienGOAT – Beautiful Lover

オークランドのプロデューサー、bastienGOATのEP「NODE」から1曲。bastienGOATはフットワーク系の曲をやってるので知ったのだがもっと万能というかいろんなベースミュージックをごりごりやっており結構好きなプロデューサー。「Beautiful Lover」はバキバキに歪んだベースで聴かせるブレイクスでその潔さにぶち上がる。同じEPでは「That’s why they roll」もレゾナンスききすぎてびちょびちょになったシンベの気持ち悪さがクセになって素晴らしい。

Dabow – TRAPBELL

アルゼンチン出身のプロデューサー、Dabowのシングル。曲名のとおり、ベルのキンコンキンコン言うサンプルが印象的なトラップで、妙なサンプル一本で突っ切るミニマルさがぐっとくる。BandcampをのぞいたところHamdiのヒット曲「Skanka」のクンビア・フリップなんかやっててそれもよかった。

Klinical, Killa P – Ready

UKF DubstepのYouTubeチャンネルで聴いてかっけ~となって選曲。ダビーでスモーキーなゼロ年代のダブステップのフィーリングを蘇らせつつ、サウンドのビッグさはもっと現代的な感じで、世代的にぐっときてしまう。Klinicalはどっちかっていうとドラムンベースもともとやってたのが140くらいのノリになってきたっぽくて、そういう流れなのか~と思った。

HIJINX – Swarm

もともとMr.K名義でダブステップをリリースを重ねてきたブリストルのプロデューサーで、心機一転名義を変えてHIJINXとして2021年から活動を開始。Alix Perezの1985 MusicからリリースしたばかりのEPから、ベースのニュアンスの豊かさと軋むようなウワモノのグルーヴがかなり楽しい1曲。最近盛り上がりつつあるのもあって、2010年代のダブステップをさらっておこうかしらという気になってくる。

Sully, Sãlo – Nights (Edit)

以前Basic Rhythmとのスプリットから紹介したことがあるSullyのシングル。歪んだ808のサブベースの存在感はもちろん、スネアや金物、あるいはところどころに挿入されるパーカッションのテクスチャの豊かさはある種ユーモアを感じて、やっぱりこのひとすごい好きかも。とか思う。今回選曲したのエディットバージョンだが、シングルは3月1日にリリースとのこと。

宮本フレデリカ (CV:髙野麻美), 速水奏 (CV:飯田友子) – ミステリーハート (GAME VERSION)

先日行われたデレマスユニットツアーの山形公演でライヴでは初お披露目となっていた、ユニットFrenchKisSの新曲「ミステリーハート」。PandaBoYのプロデュースによる洒落た2ステップで、フレちゃんの歌声にぐっときてしまう(奏さんの歌唱も好きだけど)。

Creepy Nuts – 二度寝

なぜこんなにジャージークラブをやるんだDJ松永。と一瞬思ったけど、まあジャージークラブうんぬんというのはある意味では表層的というか、キックのパターンこそジャージーっぽいがそう一筋縄でいくものでもなく、バックビートにスネアをきっちり打ってどっちかっていうとエイトビートのロック的なニュアンスをうまく混ぜているところにDJ松永のプロデューサーとしてのうまさを感じる。ちょっと泣き入る感じのギターをうすく被せる感じとか、日本で売るポップスとしての勘所(日本で売る、は必ずしもドメスティックで閉じている、を意味しないのであしからず……)を抑えているだろう。オーセンティックなヒップホップやジャージークラブとしてどうかというよりは、その折衷性にこそ聴くべきところがあるのでは。

Nubiyan Twist, Nile Rodgers – Lights Out

ロンドンの大所帯アフロジャズバンド、Nubiyan Twistが5月にニューアルバムをリリース。そこからの先行シングルで登場したのはNile Rodgers。アフロビートのニュアンスは抑えて、4つ打ちのディスコ・テイストを強調した前半ではNile Rodgersが大活躍しているのだが、終盤ではドラムのパターンをはじめバンドのアンサンブルがNubiyan Twistらしいアフロ・ビート的なグルーヴになだれ込んでいく。この展開はアツい。そこに改めてNile Rodgersのカッティングが登場して、アフロビートとファンクが邂逅。満足度高し。

OKAMOTO’S – カーニバル

OKAMOTO’Sのシングル「この愛に適うもんはない」のカップリング曲なんだけれど、めちゃくちゃフォーキーで染みるメロディがクセになる。展開含めてなんかくるりみたいだな……と思ったりして。再生すると思わず聴き入って、最後まで聴き通してしまう。

Sweet William, 中山うり – スイカ

Sweet Williamの3年ぶりとなるアルバムに収録された、中山うりをフィーチャーした洒脱な歌モノ。ハットを抜いたキックとスナップだけのシンプルなリズムパターンを補うように配置されたサウンド(パーカッションもさることながら、アコギやピアノも)が、非常に簡素な印象の音像のなかでおもいのほか緊密に組み合わさっているのが良い。ループ感が強いようでいて、意外なほど「展開」していて、イージーに聴けるけど巧みなクラフトで成り立っているな……など。

Faye Webster – Feeling Good Today

オートチューンによる2声のハモリが印象的なFaye Websterの新曲。1分半にも満たない小品で、ほぼギターの伴奏だけ(アウトロにピアノが登場する)というカジュアルさながら、そのカジュアルさゆえに輝くものがある。素晴らしい。

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カル活ダイアリー(2月3日、4日、7日)

2月3日

THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS UNIT LIVE TOUR ConnecTrip! 山形公演(やまぎん県民ホール)を見た。デレマスのライブは昔ライブビューイングで見たきりで、現地参加ははじめて。近くの駐車場に乗り付けてやまぎんホールに向かうと、アイドルのハッピ着てタオル持ったおたくが広場に押し寄せていて迫力があった。おれはグッズ関係なにひとつ持ってなくて、逆にちょっと恥ずかしかった。気合の入ったおたくにたいする引け目、ありますよね。

開演前BGMには、山形出身アイドル辻野あかりのソロ曲が流れて会場ぶち上がり。いい曲だね。

うちはりんご農家でもあるので山形りんごがフィーチャーされるのはうれしいが、山形といったらむしろさくらんぼやラ・フランスではないかという思いもなくはない。

3階席最後列という席ガチャハズレな感じの場所だったけど、そもそもホールがそんなに広くないのでぜんぜん気にならなかった(オペラグラスはやっぱり欲しかったが……)。というかこんな場所でデレマスのライブ見れるのやべ~って感じで、なんとも贅沢な時間であった。80分とか90分だったかな。タイトだけど濃密なセットリスト。

まあいろいろ楽しかったのだが(MCとか)なによりイノタク曲を存分に楽しめたのがよかった。かねてから生涯ベスト、世界で一番いい曲と公言してきた「クレイジークレイジー」を生で聴けたし、「Radio Happy」も見れたし、「Hotel Moonside」も見れた。思い残すこと、なし。生で動くあやっぺを見れたのもよかった。

ただ、やっぱりペンライトを振って盛り上がるというのがなかなかよくわからない。後半になってようやく掴んできたけれど。あと4つ打ちで手拍子起こるのはいいけどみんな走りすぎてて「ちゃんと音を聞いて!」と思った。でも手拍子って意外とむずかしいよね。おれも上手にできる気がしない。

2月4日

山形駅西口のレコ屋RAF-RECに食品まつりさんとTaigen Kawabeさんが来るというので見に行った。食品さんの『Yasuragi Land』には日本盤ライナーを書いていて、インタビューもリモートでしていたのだが、対面ははじめて。『Yasuragi Land』にも参加していたTaigenさんとあわせて、きちんと挨拶できてよかった。食品さんはラップトップとSP-404 Mk2とRoland E-4でパーカッシヴだけどビートレスなトラックとヴォーカルというか声のパフォーマンスを組み合わせたライヴで凄まじかった。なんかもう、「熱唱」というかんじで。SP-404に仕込んであるネタはゲーム機のサウンドロゴばかりでそれもとんでもなかった。Taigenさんのパフォーマンスはラップトップからトラックを流し、足元のエフェクターを操りつつヴォーカルを披露するスタイル。セットアップはめちゃくちゃミニマルなのにオーラとパフォーマンスでスペクタクルにしててすごかった。そのままフリーなセッションに突入して謎の狂騒を経て幕を閉じた……。

2月7日

東北芸術工科大学の卒展がはじまったので見に行った。印象に残った人をいくつか。

美術科洋画コースの木村晃子さん(note)、道端に投棄されるし尿入りのペットボトルを題材にしたモキュメンタリーとインスタレーション(《Golden PET Bottle》)、露悪といえば露悪なんだけどアウトプットがスマートで、でも適度に俗っぽい(モキュメンタリーというアプローチ自体が持つ俗っぽさ)。ただテレビとかYouTubeみたいなメディア/プラットフォームではキャッチしきれなさそうなつかみどころのなさもある。

大学院複合芸術研究領域の横田勇吾さん(ポートフォリオサイト)、たしか学部の卒制で作品を見ていて印象に残っていたのだが、そのときよりもテーマが地に足ついていたと思う(うろ覚えだけれど)。ストリートダンスの経験に基づきつつ、ダンスの身体性に加えて、身体の外部(空間、時間、リズム)とどう関わっていくかを突き詰めた結果、ある種のコンテンポラリーダンスみたいな問題意識(日常の動作とその身体性、サイトスペシフィシティ)とパフォーマンスになっているのが面白かった。ストリートからのコンセプチュアリズムってめちゃかっこよくないすか。

大学院芸術文化専攻絵画領域の小林由さん(Instagram)。この人もストリートダンス経験をもとに制作しているのだそうだけれどがっつりペインティング。ダンスの経験はモチーフのレベルでも明確だけれど、方法のレベルにも入り込んでいる。描いた絵を裁断してミシンで再構築して、フレームに不定形なままはりつける。コラージュ的な造形もヒップホップっぽいけど、このフレームからはみ出したりフレーム自体がいびつだったりするところも、あの種の音楽が持つ歪みや断絶(トリシャ・ローズ的な)の具現化っぽくて面白い。帰ってから、小林さんも卒展で見てたのに気づいた。でも卒展のときよりも方法面でも造形でもキャッチーで強いと思う(モチーフの選択が若干ベタすぎる気もしないでもないけど好みの問題ではある)。

美術科洋画コースの塩原唯菜さん(ポートフォリオサイト)。描いているモチーフ自体はキャラクターっぽいというかイラスト的なアプローチなんだけど、線に物質性をもたせる方向で構成された画面がすごくよくて、正方形のフォーマットもばちっとハマっている。素朴にもっといっぱい見たい。

ここ数年で見たなかでも面白かったような気がする。コロナ禍で制限が厳しかった時期に制作・発表せざるをえなかった頃を越えて、学生生活がはじまる頃にコロナ禍が本格化して、その環境を前提に制作するようになったからだろうか……とか思った。

ちなみに芸工大ついて車停めてひといき着いてたら目の前を卒展見学にきていたとおぼしき学部生時代の恩師が通りがかり、「えっマジで?」と思いつつ急いで車を降りて勇気を振り絞り声をかけたところ、結構ちゃんと覚えられていた。14,5年ぶりなんじゃないかな。

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