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私的2018年のベストアルバム・EP、25枚(25位~11位まで)

 2018年はいい音楽がたくさんありましたね。そのなかから25枚ほど選んでみました。順位は一応つけてありますが、まあもうだいたい甲乙つけがたいっすよ。トップ10枚はゆるがないかもしれないけど。25位から11位まで。トップ10だけ見たい人は↓の記事をどうぞ~。

caughtacold.hatenablog.com

25. joji『BALLADS 1』

 2018年を語る上で欠かすことができない、88rising勢の躍進とBTSビルボード制覇というアジアンカルチャーをめぐるふたつの出来事。jojiはこの作品でビルボードR&Bチャート1位を獲得したこともあってBTSと並んでアイコニックなミュージシャンだと言える。もちろんそうした彼のアイデンティティにまつわる逸話もさることながら、ヴェイパーウェイヴと並ぶ2010年代のミーム・ミュージックであるlo-fi hiphopの流れを汲んだけだるいサウンドにのせてシリアスなラヴソングを切々と歌う彼のスタイルがブレイクスルーを果たしたことも興味深い。もちろんプロダクションは最初のミックステープやサンクラにアップロードしていたデモと比べて多様化し、クオリティも上がっているのだけれど、むしろClairoみたいなYouTuber発のインディポップ勢との近しさも出てきてそれもまた一興。

24. George Clanton『Slide』

 レーベル100% Electronicaを運営し、チルウェイヴ~ヴェイパーウェイヴの重要人物としていまなお存在感を放つGeorge Clantonのリリースした『Slide』は、80’sポップスからマッドチェスター、レイヴの残り香、チルウェイヴをごたまぜにしたノスタルジックなドリーム・ポップだった。スクリューされたと思しきピッチの不安定なサンプルがアトモスフェリックな空間を作り出す一方で、ブレイクビーツや四つ打ちがゆっくりと足元からダンスへと誘う。ポストヴェイパーウェイヴの風景からダンスミュージックとロックが果たしたつかのまの幸福な融合(=マッドチェスターね)をふたたび覗き見るかのようだ。っていうかGeorge Clantonの歌声がスウィートでめっちゃ好き。2018年一番のサイケデリア。

23. KIRINJI『愛をあるだけ、すべて』

 今年の上半期、頭のなかを離れることがなかった「非ゼロ和ゲーム」。「非ゼロ和ゲーム(調べろ)非ゼロ和ゲーム(ググれよ)」。ポップスに登場する語彙を拡大しなくてもいい方向に拡大していくKIRINJIというか堀込高樹の面目躍如。Drake以降のループ構造を強調したチルいポップスを、和声にこだわる職人的ミュージシャンがどのように噛み砕いて自分のものにしうるか、という意味では冨田ラボのソロ作『M/P/C』とも共通するけれど、バンドアンサンブルの妙や詞の放つメッセージのオフビートな皮肉がサウンドを魅力的に輝かせている。弓木英梨乃がキュートなヴォーカルを披露する「After the Party」はネオソウルとAORの中間みたいなアレンジでけだるいパーティ後の帰り道を描く名曲。最高じゃん? 「そんなところで寝ちゃだめです。財布抜かれてしまうから。おじさん!」

22. Playboi Carti『Die Lit』

 Pi’erre Bourneのゲーム・ミュージックみたいな淡白極まりないビートに、やる気があんだかないんだかわからないような繰り返しばかりのPlayboi Cartiのラップ、この組み合わせだけでもう勝利だったというほかない。しかし、「チル」に見せかけて提示するヴィジュアルはハードコアシーンと見紛うモッシュと狂乱。このコントラストよ。今年のベストアートワーク(MV含む)は間違いなく『Die Lit』だ。Skeptaを連れてきてPi’erreの奇妙なビートの上でラップさせ鮮やかにUSとUKを対比してみせたり、力強くライムをスピットするNicki Minajを骨抜きにするようなすかすかのビートにあわせてみたり、Pi’erre+Cartiの磁場でぜんぶ持ってってるのもかっこいい。いろいろ話題になったラップアルバムはあったけどおれのなかではこれが常々立ち戻るポイントだった。

21. 高木さん(CV:高橋李依)『からかい上手の高木さん Cover song collection』

 アニメキャラによるJ-POPカヴァー、というのはまあ昔からしばしば見られたものとはいえ、いかにもアニソン然としたアレンジではなく直球のJ-POPを狙ったものでここまで心に刺さるもんもないんじゃないですか。90年代~ゼロ年代のヒット曲を、ゼロ年代末っぽいアレンジとサウンドで丹念につくりこんだ結果、アラサーのノスタルジーにブルドーザーで突撃してくるみたいなアルバムになってしまった。高橋李依さんのヴォーカルもいい、彼女が歌うまるで「いきものがかり」のようにアレンジされたMONGOL800「小さな恋のうた」とか感涙もの。なんだかんだ直視してこなかった、骨の髄までインプットされたJ-POP精神が呼び起こされる経験に戦慄と恍惚を覚えますね。アニソンJ-POPカヴァーの新次元……。

20. Elysia Crampton『Elysia Crampton』

 ボリビア出身のプロデューサー、Elysia CramptonのEP。フットワークをはじめとするベース・ミュージック的なアプローチで民族的なパーカッションを積み上げていくサウンドは、ダークかつダンサブル。が、ハーモニーのつくりかたとか、ちょっとポストロックというかマスロックを思わせるギターのフレーズをポリリズミックに重ねてみせたりするあたりに絶妙なキャッチーさがあって、ダンスミュージックの快楽とエクスペリメンタルが絶妙に融合している。ある意味SOPHIEとJlinの中間にいるというか。2016年作も土着性とエレクトロニクスの配分が絶妙な、確固としたヴィジョンとスタイルを感じさせる一枚。

19. Noname『Room 25』

 Nonameの2作目。バンドの演奏をフィーチャーしてよりリッチでウォームなサウンドになり、ときにはフィルムスコアみたいなアレンジのストリングスまで鳴らす素晴らしいビートが揃っている。その上にのるNonameのラップは巧みな言葉遊びやユニークな視点はそのままに、より直接的な政治的・社会的メッセージや挑発がかなり辛辣につづられている。一曲目で「Y’all really thought a bitch couldn’t rap huh? / Maybe this your answer for that」とスピットして見せた通り、リリシストとしてラッパーとしてのスキルは疑いようもなくオリジナル。ビートにそのままのっかるのではなく、ビートと並んであるきながらところどころで絶妙にポケットに入っていくフロウがとりわけ素晴らしい。ネオソウルとアフロビートを行き来するビートのグルーヴも含めて堂々たるスタイルを見せつける作品。

18. Jlin『Autobiography』

 リズムの実験の先端をいくジャンルはやはり未だJuke / Footworkじゃないか、と改めて思ったJlinによる今年のリリース。『Black Origami』で見せていたコンポジションの複雑化とIDMへの接近が、モダンバレエの劇伴という文脈を伴ってさらに推し進められた。サントラという事情からアルバムとしての統一感や完成度に対する評価は微妙だが、トラックごとの機能性という発想から離れたことによる自由さはそれを補ってあまりある。一小節のなかに折り重ねられる複数のグルーヴがモアレのようにさまざまなリズムを生み出し、緩急をつくりだす。そうしたFootworkの美学を拡張すると、自在に拍と拍子が伸び縮みしてゆく不定形のグルーヴに発展する。もともと3連を多用した幾何学的と言えるコンポジションを持ち味にしていたJlinらしい、しかし実際に目の当たりにすると予想を超える可能性が見えてくる、一歩先ゆく試み。

17. Moses Sumney『Black in Deep Red, 2014』

 昨今ポップスからインディロック、エクスペリメンタルにまで至るヴォーカルをめぐる印象的な実験の数々を「変声音楽」というキーワードで紹介してきたのは批評家の八木皓平さんですが、オルタナティヴR&Bの分野で声をめぐるユニークな作品が見られたのも今年、という印象で、それはひとつにはserpentwithfeetであり、また(これがオルタナR&Bというかは微妙だが)Yves Tumorであり、Moses Sumneyだったように思う。重ねられた声がリズムとメロディを同時に紡いでひとつの織物をつくりあげるようなアプローチはそれだけで興味深いし、あるいは民衆のチャンティングを電子的に変調されたヴォーカルがのっとってしまう「Power」がもたらす戦慄はきわめて批評的。3曲入りのEPながらむちゃくちゃ存在感がある。

16. People In The Box『Kodomo Rengou』

 年始に出たアルバムなのだけれど、年末から振り返ってみればこのアルバムくらい2018年の国内リリース豊作を予言していたものもないな、という盤。ceroのように南北アメリカ大陸へ想像力の翼を羽ばたかせて日本をかえりみるのとは対照的に、名前を失った郊外の街と高度資本主義社会をバックグラウンドに奏でられるプログレッシヴなギターロック。淡々とリズムを刻み、ときに滞ってときに駆け出すグルーヴと、奇妙な匿名性、日付の喪失を感じさせる詞世界が、かえってリアリティを持って迫ってくる。にもかかわらずキャッチーなメロディや、ふと顔を見せるハーモニーはかろうじて与えられる救いといった感じか。tofubeatsニュータウンに歴史を読み込みなおして再定義しようとするのを横目に、留まることなく進行する資本主義リアリズムの日常を郊外から観察しつづけてポエジーを発見する作品。

15. Maison book girl『yume』

 アイドル文化華やかなりしディケイド(05年~15年)を経て、アイドルはいまシステム的にも音楽的にも次のステップを探っている感があるけれど、現代音楽とポストロックのボキャブラリーを援用した楽曲で独自の世界を築き上げた女性ヴォーカルグループとして、Maison book girlは頭一つ抜けている。彼女たちをアイドルと言っていいのかはもはやわかんないけれど。本作『yume』は既発曲をスキットや環境音で編み上げてひとつのコンセプトアルバムに仕立てた一作だけれど、個々の曲のキャッチーさとアルバム全体のストーリーががっつりと噛み合っていて、堂々たるクオリティを誇っている。これ以上言うことあるか。とりあえず聴いて損ないから聴きましょう。掛け値なしに勧められるアルバム。

14. 星野源『POP VIRUS』

 いま日本で世代を問わず親しまれるポップスターって星野源くらいしかいないんじゃないかと思う。で、その星野源がなによりもまず音楽好き、ポップカルチャー好きの通人であり、つくる音楽のひとつひとつがアメリカのポップミュージックへの深い造詣を反映した、高いクオリティを誇るJ-POPであることは貴重なことだ。「イエローミュージック」という多少問題含みのコンセプトは日本の歌謡曲~J-POPの系譜に改めて「外」を接続し直す試みだったと言える。一転して本作では「イエロー」から「ポップ」、しかも感染性の「ポップ」へと移行し、R&BやネオソウルのみならずEDM以降のダンスミュージックも取り入れてアレンジもサウンドネクストレベルへ。惜しむらくはこれがドメスティックなマーケットにしか向いていないこと! なんでやねん! 「ポップ」に国境はないんだよ!

13. Sen Morimoto『Cannonball!』

 88risingが唐突にアップロードした「Cannonball」のMVが提示した、ジャズとヒップホップとポストロックが入り混じった今まで知らなかったような音の世界は、いまでもあざやかな衝撃とともにある。ささやくようなセクシーな歌声を特徴とするヴォーカリストであり、またサキソフォンをメイン楽器とするマルチプレイヤーであるSen Morimotoは、Chance the Rapperなどのシカゴ勢とはまた異なるシカゴのいち側面――ポストロックの聖地であり、根強いインディシーンがある――を触媒としてその才能を開花させた。サンプラーをバックにサキソフォンを鳴らし、歌うMorimotoの姿も、凄腕のバンドを従えるMorimotoの姿も、どちらも現代的なSSWの姿を象徴するようでもある。コンテンポラリーなジャズのボキャブラリーをポップスに昇華するアプローチはceroとの同時代性を感じさせた。

12. cero『POLY LIFE MULTI SOUL』

 2018年はヤバいぞ、と感じさせた春のリリースであった。上半期のベストはこれでしょう。菊地成孔率いるDC/PRGが南下しラテン音楽のエッセンスをアフロ・ポリリズムのなかに融合させた『フランツ・カフカ南アメリカ』の達成を、ダンスフロアとジュークボックスへ翻訳したような、きわめてモダンかつアヴァンギャルドなポップミュージック。アメリカ文学への参照やブラジル音楽からの影響を漂わせつつ、クロスリズムや変拍子のうえで成立する日本語詞を紡いだ功績は大きい。加えて、そうしたリズムと言葉の実験がなによりもまず身体を震わし、動かすものであることを示す表題曲でアルバムが閉じられる構成も最高。盤石のサポートメンバーとの協働でつくりあげられたこの作品だけれどDC/PRGとceroのどちらにも大きな貢献を残した小田朋美さんって一体どんな才能なんだと震えるね。

11. ROSALÍA『El Mal Querer』

 フラメンコとビートミュージック、トラップを融合させた~と言うとわかりやすいし実際キャッチー。とはいえビートはかなりプログレッシヴでときにポリリズミックでさえある。ヴォーカルも変拍子をなんなくのりこなし、パルマ(ハンドクラップ)にあわせて身を切るような感情表現が刺さる。気鋭のディレクター集団CANADAが全面的にバックアップしたヴィジュアルも含めて、伝統と革新をひとつのファッションとして的確にパッケージングしているのも素晴らしい。ラテントラップの流行でスペイン語圏の文化が一気に存在感を増した2018年に、スペイン本国から登場した次世代のポップスター、になるか? この話題性は明らかになるパターンのやつですよね……。

Published in Japanese