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すぐそこにあるカタストロフとその不安――Oneohtrix Point Never – Age of

Age Of [解説・歌詞対訳 / ボーナストラック1曲収録 / 初回盤のみ特殊パッケージ仕様 / 国内盤] (BRC570)

Age Of [解説・歌詞対訳 / ボーナストラック1曲収録 / 初回盤のみ特殊パッケージ仕様 / 国内盤] (BRC570)

Oneohtrix Point NeverことDaniel Lopatinは、ここ10年で最も注目され、活躍するエレクトロニック・ミュージックの作り手だ。暴力的で、過剰にドラマチックで、かつ人を食ったシニカルなユーモアを湛えた彼の作品は、さまざまなサブテクスト――インタビュー、ミュージックビデオ、あるいは物語――とともにもたらされ、さながら謎解きの様相さえ呈してリスナーを魅了してきた。サウンドとサブテクストから垣間見える退廃的な世界観はきわめて物語的・映画的であり、実際そうした作家性は映画”Good Time”の劇伴を手がけるという仕事に結実している。

Good Time Original Motion Picture Soundtrack [帯解説・ボーナストラック1曲収録 / 国内盤] (BRC558)

Good Time Original Motion Picture Soundtrack [帯解説・ボーナストラック1曲収録 / 国内盤] (BRC558)

最新作 Age of は、歌にフォーカスを当てたポップなつくりで彼の音楽に対する間口を圧倒的に広げている。と同時に、絶妙に挟まれる変調とノイズは、ポップ・ミュージックに近づきつつも(もとよりそのメロディセンスにはポップさが宿っていたとも思うのだけれど)その約束事をはぐらかそうとする彼のひねくれた実験精神を感じさせる。むしろ、形式上のポップさゆえに、彼がこの作品においてなにを試みようとしているのかがより鮮明になっているようにさえ思える。

私見ながら、この作品に一貫しているのは、カタストロフの予兆と、それに対する絶え間ない不安ではないかと思う。もちろんそれは歌詞のレベル、サブテクストのレベルで表現されているが、同時にサウンドのレベルにおいても同じテーマが表現されている。

具体的にはこうだ。バロック的なハープシコードのサウンドがかすかに歪み、ピッチを変調され、ノイズすれすれにカットアップされる1曲目 “Age Of” から、MVも制作された “Black Snow” 、あるいは “Warning” などの曲に特徴的なように、メロディの流れを変調やノイズが寸断し、その向こう側に無秩序=カオスの深淵がぱっくりと顔を覗かせるかのような演出が散りばめられている。

歌、そしてメロディは任意のサウンドのなかにひとつの秩序をつくりだす。その秩序は、いつでも単なる無秩序へと還元されうる。あらゆるメロディは常にカオスに転じる可能性を孕みながら鳴り響くのだ。しかし、幾層にもわたって高度に形式化されたポップスの枠組みにおいては、この秩序から無秩序へのカタストロフの可能性が認識されることはほとんどない。Age of は、通常は無視される根源的な脆弱性を巧みにその物語のなかに取り入れ、カタストロフへの不安を描写し、体感させることに成功している。

加えて、このカタストロフは無限に延期され私たちを宙吊りにする「来るべき終末」ではなく、常にこの瞬間に訪れてしまっている、私たちの暮らすディストピアそのものでもある。

“Black Snow” のMVの冒頭、防護服に身を包みながらカメラを通じてこちらを指差す怪物の姿は、おそらく福島第一原発ライブカメラに現れた「指差し作業員」を参照しているものと思われる。なにしろ、ほかに類例がない特異なイメージだ。ビデオのなかでは、登場人物たちが果たしてなんの脅威から身を守っているのか明示はされないが、怪物のデスクの上が大写しになるカットには”RADIOACTIVE WASTE…”という表題のあるVHSテープのケースが写り込んでおり、脅威のひとつに放射能が想定されていることは間違いないだろう。

放射能をカタストロフのイメージとして特権的に論じることはここでは避けたい。それはあまりにもセンシティヴな問題であり、かつあまりにもリアルな、現在進行形の問題だからだ。しかし、現実に起こった大規模な原発事故と、それに対するいち作業員のアクションを参照しているという事実は、Age of の終末論的な世界観を、否が応でも私たちの暮らすこの現実世界に引き寄せる。私たちはカタストロフの可能性に曝されているのではなく、むしろそのカタストロフを他の秩序で覆い尽くすことで単に忘却しているに過ぎないのではないか。OPNの作品をとりまくオカルト的な要素は、SF的想像力を喚起するのみならず、すでに訪れているカタストロフへ私たちの意識を向けるよう促すのである。

さて、こうした秩序と無秩序のあわいを往還する運動は、Daniel Lopatinのディスコグラフィのなかでは、Chuck Personという変名でリリースされた Chuch Person’s Eccojams Vol.1 にも見いだせる。

2010年リリースの本作は、テン年代初頭に隆盛を見せ、その余波が未だ収まらないVaporwaveの原点としてカルト的な人気を誇っている。安っぽいヒット曲のサンプリングがディレイによって変調され、針飛びのように奇妙なループを施される本作は、ポップ・ソングが暴力的な編集によって無秩序へと還っていく、デカダンな快楽に満ちている。この作品に刺激されたVaporwaveのアーティストたちが、廃墟と化したショッピングモールをひとつの理想郷と見なした、シニシズムの極北のような音楽をつくりだしたことは、全く的を射ているというほかない。

Age ofEccojams を接続することで見えてくることのひとつに、秩序=音楽が無秩序=単なるサウンドに還元されるという事態が、デジタル化以降のオーディオにおいてとりわけ重要な意味を持つこと、というふうに思うんですが、長くなったのでこの件はまたいつか…… しかもこのデジタル化以降のオーディオにおける秩序の喪失という主題は、放射能被害ともリンクするのであった…… などと、多少陰謀論がかった話になりそうなので、まあ、話半分で……。

Published in Japanese